白川
タンザニアからの手紙 No.11 S君のこと
金山 麻美(かなやまあさみ)
わたしがジャタツアーズオフィスに用事で行く時は専用駐車場の空いているところになんとか入り込ませてもらう。最初は「ここは違う会社の場所だからダメ」なんてぶうぶう文句を言っていた警備員さんも「ちょっとの時間だけだから、お願いっ!」というわたしの粘り?に負けたのかあきれたのか最近は何も言わず停めさせてくれるようになった。
S君はアルーシャの出身で、自称24歳。いつダルエスサラームに出てきたかは定かではないが、だいぶ以前からこの界隈をぶらぶらしているいわばストリートチルドレンだったそうだ。ジャタツアーズのあるオフィスビルの中にはKLM(オランダ航空)のオフィスもあるのだが、そこで働いている女性がS君に毎日お昼ごはんを食べさせてあげていた時期があったそうだ。あるとき、その女性がS君をストリートチルドレンだった子どもたちのための施設Dogodogo Centreへ連れて行き、入所させたのだが、飛び出してきてしまったということだった。それ以来、その女性はあきれて、彼への援助をやめてしまったそうだ。
今は、他の2人の仲間たちと洗車で小銭を稼ぎながら生活しているようだ。ジャタツアーズの運転手たちもときどき彼らに洗車してもらっている。相場は乗用車がTsh500、大型4厘駆動がTsh1,000だそうだ。ジャタツアーズでは原則洗車は運転手の仕事となっているので、彼らに払うお金は運転手たちのポケットマネーだ。S君以外の2人はそれぞれ寝泊りする家もあり、結婚していて子どももいたりするらしいのだが、S君はいまだに夜はその辺の建物の軒下かなんかで寝ているらしい。運転手たちが「みんなで少しずつお金を出し合ってあげるから部屋を借りなよ」と勧めても「オラは外で寝るのがすきなんだ」と言ってうけつけないらしい。
さいきんS君は「軍隊に入ろうかな」と言い出したそうだ。周りの人たちに「前科者は軍隊には入れないよ」とからかい口調で言われると「黙ってりゃわかるはずないさ」と答えるのだって。
その後、S君が再び「仕事ないかなあ」と言ってきた。「本は読める?」と聞いたら、「読めるよ」と言うことだったので、「日本語ができるようになったら仕事があるかもよ」日本語の初歩の学習本を渡した。仕事を得るためには自分でも努力しなきゃね。その後、S君と挨拶する時には日本語でするようにしている。はてさて…。
(2006年4月1日)