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  • 執筆者の写真白川

タンザニアからの手紙 No.11 S君のこと

金山 麻美(かなやまあさみ)

 ジャタツアーズのオフィスのあるビルの前には道路を挟んで両側に駐車スペースがある。  ビル側はビルにあるオフィスで働く人用の専用駐車スペース。警備員さんもいる。向かい側は市当局に1時間Tsh300も払わなければならない有料駐車スペースである。かといって警備してくれるわけでもなく、やらずぶったくりのようなシステムである。有料駐車スペースの向こう側には、簡易食堂や売店や靴磨きスタンドがあり、いつも何人か人がたまっている。ジャタツアーズの運転手もここで待ち時間をつぶしていることが多い。

わたしがジャタツアーズオフィスに用事で行く時は専用駐車場の空いているところになんとか入り込ませてもらう。最初は「ここは違う会社の場所だからダメ」なんてぶうぶう文句を言っていた警備員さんも「ちょっとの時間だけだから、お願いっ!」というわたしの粘り?に負けたのかあきれたのか最近は何も言わず停めさせてくれるようになった。

結構車通りが多く、車を出す時に苦労する時もある。そんな時にどこからともなく現れて私の車を誘導してくれるのがS君だ。いつもだぶだぶのTシャツにパンツというストリート風といえばいえなくもない服装で憎めない笑顔をしている。裸足でいることもある。ときどき「仕事ないかなあ。仕事ないんだよね。なんかあったら紹介してね」なんて言ってくることもあるが、それだけの付き合いである。こういう兄ちゃんと深入り(変な意味でなく:お金を貸して欲しいといわれたりとかいう意味でだよ)すると面倒くさいかもという警戒心も働いて会っても挨拶する程度だったが、この間、オフィスの前の駐車スペースで待機しているはずのジャタツアーズの運転手を探していると、S君がささっと寄ってきて運転手を呼んできてくれた。(運転手は靴磨きをしてもらっていたらしい)前からS君のことをわるいやつではなさそうだと思っていたのだけど、興味がつのってその運転手に「あの青年はどういう人なの?」と訊いてみた。

 S君はアルーシャの出身で、自称24歳。いつダルエスサラームに出てきたかは定かではないが、だいぶ以前からこの界隈をぶらぶらしているいわばストリートチルドレンだったそうだ。ジャタツアーズのあるオフィスビルの中にはKLM(オランダ航空)のオフィスもあるのだが、そこで働いている女性がS君に毎日お昼ごはんを食べさせてあげていた時期があったそうだ。あるとき、その女性がS君をストリートチルドレンだった子どもたちのための施設Dogodogo Centreへ連れて行き、入所させたのだが、飛び出してきてしまったということだった。それ以来、その女性はあきれて、彼への援助をやめてしまったそうだ。

「6ヶ月間、刑務所に入れられてたんだが、出てきてからはだいぶしおらしくなったよ」と運転手さんは言う。S君が駐車場に止めてあった小型トラックの荷台に勝手に乗って眠ってしまったことがあったそうだ。そのトラックが近くのビルのオーナーの敷地に移動した時にもまだ乗っていて、勝手に入り込んだということで、そのオーナーと大喧嘩になりポリスにしょっ引かれたということだった。

 今は、他の2人の仲間たちと洗車で小銭を稼ぎながら生活しているようだ。ジャタツアーズの運転手たちもときどき彼らに洗車してもらっている。相場は乗用車がTsh500、大型4厘駆動がTsh1,000だそうだ。ジャタツアーズでは原則洗車は運転手の仕事となっているので、彼らに払うお金は運転手たちのポケットマネーだ。S君以外の2人はそれぞれ寝泊りする家もあり、結婚していて子どももいたりするらしいのだが、S君はいまだに夜はその辺の建物の軒下かなんかで寝ているらしい。運転手たちが「みんなで少しずつお金を出し合ってあげるから部屋を借りなよ」と勧めても「オラは外で寝るのがすきなんだ」と言ってうけつけないらしい。

 さいきんS君は「軍隊に入ろうかな」と言い出したそうだ。周りの人たちに「前科者は軍隊には入れないよ」とからかい口調で言われると「黙ってりゃわかるはずないさ」と答えるのだって。

 S君がずっとこういうふうに暮らしていけるかは難しいだろう。でも、なんだか、ゆるい助け合いの精神とS君の自由気ままさが久々にハートをほこほこ心地よくしてくれるような話であった。  S君たち3人がいるおかげで、その駐車スペースに素性の知れないチンピラや怪しいやつらがやってきても彼らが追い出してくれるので、助かっているということだった。

 その後、S君が再び「仕事ないかなあ」と言ってきた。「本は読める?」と聞いたら、「読めるよ」と言うことだったので、「日本語ができるようになったら仕事があるかもよ」日本語の初歩の学習本を渡した。仕事を得るためには自分でも努力しなきゃね。その後、S君と挨拶する時には日本語でするようにしている。はてさて…。




(2006年4月1日)

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