白川
タンザニアからの手紙 No.12 マウンテンゴリラに会いに行く その1
金山 麻美(かなやまあさみ)
翌朝6時半に起き、ミルクと砂糖たっぷりのチャイと朝ごはんをいただき、トレッキングの集合場所に出発。用意してきたゴリラ・トレッキング・パーミット*とパスポートで参加の手続きをしたあと、8時から公園のスタッフによるブリーフィング(説明)が始まる。広場にスタッフを中心にして円を描くように20名ちょっとの参加者が集まる。白人の参加者がほとんどだ。ウガンダ人のスタッフはゆっくりとした英語でジェスチャーも交えて説明してくれるので、比較的わかりやすい。内容はこの国立公園のこと、パーミットのお金がどうやって使われているか、ゴリラに会えなかった場合などの返金のシステムや、どうしてこのゴリラトレッキングを知ったかという質問もされたりした。トレッキング1回US$360というめっぽう高いパーミット料金は公園の整備だけでなく、周辺地域のためにも―学校を作ったり道路を整えたり―ということにも使われているということだった。ゴリラとの共生をめざすのだ。地域のコミュニティの若者たちがポーター候補として集まってきていた。説明したスタッフもコミュニティ振興のために必要な人は是非雇って欲しいということだった。 最初はポーターの必要性なんて考えてなかったが、そういうことなら頼んでみようかなあと。
1グループにつき、1回のトレッキングに8名までしか参加できない。ゴリラに会える時間も1時間と決められている。その他、7m以上近づいてはいけないとか、いろいろ決まりがある。 私と日本人の同行者たち、計3名が会いに行くグループは一番数の多い23頭いるHabinyanjaグループ。なんと生後2週間半の赤ちゃんゴリラもいるそうだ。ガイドは20代半ばと思われるジョンさん。ひょろっとしているけど、ガッツがありそうな感じ。ほかの参加者は、スウェーデンとオーストラリアから来た40歳前後のカップルが2組の合計7名だった。 私の荷物(といっても飲み水とランチボックスとレインコートくらいだが)をお願いするポーターはジョンソンさん。彼も20代だろう。小柄でほっそりした人だ。若い女性のポーターもいた。
Hグループのゴリラはちょっと遠くにいるということで、最初は車で移動することになった。なんと集合地点から22kmも離れた場所まで車で行くのだと。すでに先発のトラッカーたちが森に入っていて、ゴリラの居場所の情報をガイドと無線でやり取りするのだ。車はカンパラからずっとチャーターしているハイエースを使った。それぞれの参加者はそれぞれの車で移動する。車で来ていない人はどうするのだろう?きっとどこかの車に「お願いね」って乗せてもらうことになるのだろう。
そうしているうちにトラッカーから無線が入る。それまでこちらとの会話は英語だったのに突然スワヒリ語で「Uko wapi?」(どこにいるんだ?)などと話し始めるジョン。私たちの車のドライバーは「スワヒリ語は聞いて分かることがあるけど、話せないなあ」と言っていたので、久々に(といっても5日ぶりくらいだけど)スワヒリ語を聞いてうれしい気分に。 A「どうして無線ではスワヒリ語になるの?」とスワヒリ語で聞いてみた。 J「ウガンダでは公的な用事のときはスワヒリ語を使うんだよ」 というスワヒリ語でのお返事。ジョン自身の母語はルジガ(聞き取りがあっていれば…)という言葉だということだった。
山道を40分くらい揺られただろうか。途中もしばらく民家と畑の続くところを走っていたが、緑の色が濃い鬱蒼とした木々でいっぱいの山が見えてきて 「さあ、いよいよだよ」とジョンが言った。
車を道の端に停め、歩き出すことに。ポーターのジョンソンにリュックを預けた。彼は地元の村の農民で週1回だけこうやってポーターをやっているということだった。ほかにも学生だというポーターもいて、ポーターは専門職ではないようだった。これは、地域の人たちがじかに守るべき自然と接してその大切さを実感するためにも有用なことだなと思えた。実際、ジョンソンは道すがら、ゴリラの好きな食べ物を見つけると教えてくれたし、ゴリラの声がかすかに聞こえてくるといち早く私に知らせてくれた。なによりも若い男の人に荷物を持ってもらった上に滑りやすい所では、手を引いてもらったので、気分が良かったことは言うまでもないだろう。
* ゴリラは、西ローランドゴリラ、東ローランドゴリラと今回のマウンテンゴリラの3種類がある。マウンテンゴリラは飼育下では生きられないらしく、動物園で見ることはできないということだ。
* ゴリラ・トレッキング・パーミットは前もって予約が必要だ。一回US$360。7~9月、年末年始などのピークシーズンにはかなり前から予約しないと取れないこともあるという。5、6月は比較的すいているそうだ。
* 今回の旅はカンパラの提携旅行社 Greenleaf Tourist Clubで手配してもらった。
* 山極寿一氏著「ゴリラの森に暮らす」(NTT出版)と「ジャングルで学んだこと」(フレーベル館)を参考にさせていただいた。
(2006年6月15日)