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  • 執筆者の写真白川

タンザニアからの手紙 No.38 中学校にまつわるもろもろ

金山 麻美(かなやまあさみ)

キンゴルウィラ村の小学校。©椎名ゆりか9月9日、10日はタンザニアの小学7年生(最終学年)の国による卒業試験の日だった。タンザニアの義務教育は小学校の7年間。中学校は義務教育ではない。つまり、この卒業試験の結果で、公立の中学校に入れるかどうかが決まるのだ。

 我が家の夜警Sの息子はまさに今年7年生で、この試験を受けた。タンザニアの学校は1月に新学年が始まる。試験終了後から12月までの3ヶ月強は、もう小学校に行かなくてもよく、その間何をするかというと、息子を「塾」に行かせるのだという。その名も「プレフォームワン」。中学校の学年の数え方はフォームⅠ、Ⅱとなるためであろう。フォームⅠ予備校。でも、なぜ試験が終わってから?  塾は中学校の勉強(授業用語が小学校はスワヒリ語だったのが、英語になる)についていくための準備だという。退職した中学校教師が来て近隣から集まってきた子どもたちに教えるらしい。月謝は3ヶ月で4万4千シリング だといって、Sはわたしから借金していった…。

 周囲に7年生の子どもをもっている親たちが結構いるのだが、全員がプレフォームⅠに子どもを行かせている。事情があって、中学校が決まるまでの間、南方の故郷の村に戻る家族も、そこで子どもをプレフォームⅠに行かせると言っていた。

 結果がわかるのが、12月ころだということだが、公立の学校に合格すれば、1年間の学費が2万シリングですむ。しかし、公立に落ちて私立に行かせなければならないとすると安いところでもその10倍どころではすまないようだ。私立の寄宿生の学校に行かせている親は寮費やなど全部含めてだが、年間100万シリング払っていると言っていた。  公立中学を落ちたからと言って、仕事があるわけでもないので、ダルエスサラームに住む親たちはとりあえずは、中学校に…と考えている人たちが多いようだ。もちろん教育を受けさせれば、子どもたちの将来が開けるという考えもあってのことだろう。

 たしかに統計を見ると公立中学校数は確実に増えている。タンザニア全土で2005年に1,202校、2006年には1,690校だったのが、2007年には2,806校と1,000校以上も一気に増え、2008年には3,039校となっている。私立校とあわせると全部で3,798の中学校が2008年には存在することになる。そういえば村全体で協力し合いながら作ったルカニ村の公立中学校の開校も2007年であった。

ルカニ村中学校。©辻村英之 小学校の就学率は2006年は96%、2007年、2008年は97%である。2001年に義務教育が無償化され、政府も教育予算に重点を置いているので、就学者数は順調に増えているのであろう。  2007年の小学校7年生の在籍者数は、816,472名であった。2008年の中学1年生の在籍者数は438, 901名。(公立、私立含めて)この人数から進学率を割り出してみるとなんと53.7%となる。2002年中1/2001年小7が17.7%だったのと比べるとすごい伸び率だ。小学校卒業者の半分以上が中学校へ行く時代となったのだ。

 それはいいことだと思う。上の教育を受けられるための門戸が広がるのが悪いわけがない。が、学校数と生徒数が増えてもまだまだ追いつかない問題はいろいろあるようだ。

1)教師

 中学の学校数と生徒数が劇的に増えているにもかかわらず、公立学校の教員数の伸びは少ない。公立中学1年生から6年生までの2006年の生徒数は、490,492人、2007年は890,924人、2008年は1,035,873人である。2006年から比べると2008年は2倍以上の生徒数となっている。それに比べ、教員数はどうかというと2006年15,822人、2007年22,076人、2008年24,971人と2006年からは1.5倍しか増えていない。

 教員が不足している学校がけっこうあるということだ。ダルエスサラーム在住の親は、同じ公立学校でも古くからの歴史のある学校と新設校では、教師や設備の面ですごく違うので、古くからある学校に子どもを行かせたいと言っていた。また、最初は私立中学に子どもを行かせていたが、欠員募集で公立学校に入学許可が出たため、転校させたが、教員がやる気がなく、勉強が進まないので、また私立学校に転校させたという親の話もきいた。

ダルエスサラームの古くからある中学校 教員養成学校を出てもタンザニア全土のどの学校に赴任となるかはわからないらしい。地方の学校に赴任が決まると、断るケースも多いということだ。聞いた話だが、教師の給料は銀行に振り込まれる。銀行もないような村では、バスに乗って、運賃と時間をかけて給料を取りにいかなければならない。1日では行って戻って来れず、運賃や宿賃で給料の何日か分が飛んでしまうというケースもあるらしい。ただでさえ、給料の遅配が言われているのだけど。  断ったら就職がなくなるのでは…と思ったけれど、それはそれ、地方赴任を断っても、コネをつかったりして、都会の学校に就職を決める者もいるようだ。

 タンザニアの北部、アルーシャのロリオンド中学では、それぞれの教科、特に科学と数学の教師が不足していて、生徒たちは十分な教育を受けられない。校長は「当初には25人の教師がいたが、2007年と2008年になったら15人となり、今では10人しか残っていない」と言う。(『MWANANCHI』 5月28日付け記事より)

 当初というのがいつのことだかわからないが。この校長によるといなくなった教師たちは更なる勉強をしに行ったということだが…。

ルカニ村の中学生。©辻村英之2)生徒

 入学を認められた親や生徒が勉学への希望にあふれているかと言うとそうでもない場合もあるようだ。  記事が手もとにないので、ソースを明記できないが、地域で診療所と中学校を作ったら、診療所に行くと言って学校をサボる生徒が増えたため、中学校の生徒が診療所で診てもらう場合は、必ず学校の許可を得なくてはいけなくなったという話を読んだ。

 また、女生徒たちには勉学を続けていく上で深刻な問題が立ちふさがっている。

 知り合いのタンザニア人の姉妹は3人の姉(そのうち二人はシングルマザー)たちが働いて一番末の妹の学費を捻出していた。3人の姉たちは小学校卒だが、妹は中学校に入り、勉強を続けていくはずだった。4年生になり、卒業すれば中学校教育が一区切りつくというこの年になんと、妹は妊娠してしまった。以前は妊娠即退学だったようだが、今は、出産後に希望すれば復学できるはずだと姉は言っていた。が、妹は、もう勉強を続ける気力をなくしているらしい。かといって結婚するでもないらしい。姉たちと同じシングルマザーの道を選ぶのだろうか…。

 こちらも北部だが、マラ州のロルヤ地方にある中学校では全部で40人の女生徒が中学1年生の入学を認められた。しかし、21人しか登録がなく、その中でも何人かはまったく学校に来ないものもいた。現在ではなんと5人しか在学していない。識者によると、この地区の中学校退学率は高く、そのひとつに低年齢での結婚があげられ、親たちは婚資を得られるから結婚を祝福するのだと言う。  それだけではなく、この学校には1年生から3年生までで教員が3人しかいず、教材や教員住宅も不足しているという。(『DAILY NEWS』 9月12日付け記事より)

ダルエスサラームの女子中学生 上記に畳み掛けるようにして、この地方の中学校に関する記事をもうひとつ。  マラ州には24の中学校があり、そのうち寄宿舎があるのは2校だけである。この2校では女生徒たちが寝泊りをしている。こういった寄宿舎が女生徒のドロップアウトを防ぐことになるので、各学校に寄宿舎を作っていく必要があるということだ。  マラ州には21の地区があり、24中学校があるので、政府が推奨している各地区に中学校を少なくともひとつ、というのは満たしている。しかし、「多くの女生徒たちは、早期結婚だけでなく、妊娠によっても退学していくのである」とニャンドウガ中学の校長は述べた。

 この地区のマソンガ中学ではなんと今までに4年生まで終えた女生徒はたったひとりしかいない。この地区の女性カウンセラーは、「ほかの39人は退学していった。女子が中学校教育を受けることを差別する家族もいる。また、多くの場合、残念なことに妊娠した女生徒たちは相手がだれかを言わない。こういった男たちを見つけ出し、教育していくこともまた、必要であるのに」と述べた。  深刻な問題は、妊娠した女生徒たちの間に中絶を試みるものが増えてきているということだ、と前出の校長は述べている。そして、政府が妊娠した女生徒たちが産後に勉強を続けるためにどうサポートすればいいかを考えるべきだ、そうでないと中学校はたくさんの女生徒たちを失ってしまうとも言う。

 この地区の教育省の役人は、われわれができることは、妊娠と早期結婚を避けるために寄宿舎を作っていくことだと言う。が、それも資金不足でなかなか進まない。4年生まで終えることのできたエヴァ・マニャンゴ(19)は、上のレベルの学校に進んで、弁護士になるという夢をもっている。  女生徒たちは自分たちのよりよい未来を切り開くために真剣に勉強に取り組まないといけない。男たちの誘惑に負けてはいけない」と彼女は言っている。(『DAILY NEWS』 10月30日付け記事より)

女の子は変わらなきゃ!という電話相談の ヘルプラインのキャンペーンの宣伝と女子中学生 タンザニアでは、中絶は非合法なので、大変な危険が伴う。また、無防備な女生徒たちがHIVに感染してしまう可能性もある。ケニアの話だが紅茶農園のあるケリチョ県のある中学では、長い距離を歩いて学校に来るまでの間に男につけ込まれて妊娠させられ、退学して行く女生徒が多いという記事も読んだ。農園の木々の中に男が潜んで待ち伏せすることができるからだそうだ。  寄宿舎を作ればある程度は防げるかもしれないが、根本的な解決方法にはなりえない。  政府は教育の改革案で妊娠した女生徒が学校を続けられるような教育政策を打ち出してきているという。(『DAILY NEWS』 9月12日付け記事より)  しかし、その前に望まない妊娠、結婚を防ぐための方策を考える必要があるだろう。両親、男たち、若者たちの意識改革…。少女たちが自分たちに誇りを持てるようになること。まだ長い道のりが必要なようだ。

 20年来の知り合いで、今はコックをしているタンザニア人女性(40歳)に聞いた話を思い出す。彼女は小学校では勉強が好きで、また成績もとても良かった。しかし、経済的なことと、まだ当時は女子には中学校の教育は必要ないという風潮も今より強かったため、中学進学が叶わないとわかったときには、一晩中泣きとおしたと言っていた。

 彼女の涙を無駄にしないようにするためには…。せっかく増えた中学進学の機会を有効に使えるようにしていかなければ…。

☆参考文献:『Hali ya Uchumi wa Taifa Katika Mwaka 2008』(Wizara ya Fedha na Uchumi,Juni 2009)

                (2009年11月1日)

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