タンザニアからの手紙 No.40 ピリピリ・ンブジーpilipili mbuzi
金山 麻美(かなやまあさみ)
ピリピリ(pilipili)とはスワヒリ語で唐辛子のこと。すごく覚えやすい。感覚って文化や住んでいるところが違っても同じところがあるんだねと、うれしくなる。
このピリピリ、好きな人は好きなようで、我が家のお手伝いさんのT嬢も近所の市場に行くと買ってくることが多く、会社のドライバーさんたち用のまかない昼ご飯のおかずに入れている。
写真の右側にあるピーマンを小さくしたような唐辛子はピリピリ・ンブジ(pilipili mbuzi)と呼ばれていて、左側の普通のピリピリよりだいぶ辛いということだ。わたしは辛いのがあまり得意ではないので、避けているのだけど。5個で100シリング(10円弱)ほどである。緑のがまだ熟していないもので、赤いのが熟したもの。
ンブジというのは、山羊という意味のスワヒリ語なんだけど、 「なんでンブジなんだろうね?」 とT嬢に話しかけると 「さあ、よくわからないけど、もしかしたら、ンブジが怒るとすごい迫力があるからかな」 と言っていた。山羊が怒ったところには遭遇したことがない気がするけど、そうか、恐いのか。
ちなみに一番左側の黄色いチビナスのようなのは、ニャニャチュング(nyanyachugu)という野菜で唐辛子ではない。ニャニャはトマト、チュングは苦いという意味なんだけど、煮るとトマトよりもナスに近い食感だ。そしてほろ苦い。おかずの味のアクセントとなるところは、唐辛子と似ているかな。
この前、肉屋でピリピリ・ンブジのボトルを見つけた。110ml入り。値段を忘れてしまったんだけれど、500シリングくらいだったと思う。色がきれいなので、思わず買ってしまったが、見るからに辛そうなので、飾って見ている。
このピリピリ ンブジ、やみつきになる人もいるようで、日本人でタンザニアで暮らしたことがあり、今は帰国した知り合いに、
「タンザニアのお土産は何がいい?」
と尋ねたら、即答で
「ピリピリ・ンブジ」
と返ってきたことがあった。生の野菜は持ち込みできないだろうから、ボトルのピリピリ・ンブジをあげようかな。
その後、ピリピリ・ンブジは、なぜそう呼ばれるようになったのかと、周りのタンザニアの人たち々にきいてみたけれど、謎は謎のままであった。
そこに現れたのがこの本「トウガラシ讃歌」(山本紀夫著 八坂書房)。トウガラシに関心をもつ"もの好きな"20名もの人々がそれぞれ自分にゆかりのある国のトウガラシについて書いものをまとめた本である。
コロンブスがアメリカ大陸以外の人間として初めてトウガラシを目にしたのが現在はハイチとドミニカがあるエスパニョーラ島。15世紀後半のことだった。彼によってヨーロッパに持ち帰られ、そしてアフリカやアジアなどにも広がったのだという。
野生種のトウガラシは鳥が食べることによって自然散布されていったそうだ。鳥は辛味を感じないのか?
スワヒリ語では、ピーマンはpilipili hoho( ピリピリ・ホホ: ホホの意味は不明)、こしょうはpilipili manga(ピリピリ・マンガ: アラブのトウガラシという意味だそうだ)という。この本によると日本でも九州地方などではトウガラシが「こしょう」という名称で売られていることがあるそうだ。スワヒリ語と日本語、ちょっと通じるものがある?っていうか人の感覚ってどこでもそれほど変わらないって言うことかな。
さて、肝心のピリピリ・ンブジ。この本のタンザニアコーナー『ピリピリと料理の相性』の執筆者伊谷樹一さんによれば「ンブジィとは山羊のことで、直訳すれば『山羊のトウガラシ』ということになるが、それは形状からの命名ではなく、おそらく『山羊料理によく合うトウガラシ』という意味なのだと思う」ということだ。 「肉厚でフルーティーな香り」のするこのピリピリは山羊料理を提供する食堂やバーには必ず用意されているそうだ。なぜかというとこの甘い香りが「山羊肉特有の強い匂いを緩和してくれる」のだって。なるほどねえ。とはいえ、わたしは山羊肉は苦手なのであった…。ピリピリも…。
謎に答えられなかったタンザニアの人々も「そういわれればそうだよね」って感じなんだろうけどね。 ちょっとすっきり。自分自身で試せないのは残念だけど。
タンザニアでは、それぞれ牛肉、豚肉などと相性のいいピリピリがあるそうだ。「二日酔いを吹き飛ばしてくれる」ような効果的なピリピリの食しかたも書いてあるので、肉とピリピリ好きの方は是非、ご一読あれ。
☆このお話はわたしのブログ「タンザニア徒然草」にアップしたものを再構成したものです☆
(2010年8月1日)