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タンザニアからの手紙 No.57 深くて広い『アフリカン・ポップス!』の世界

金山 麻美(かなやま あさみ)

 アフリカは広い!と読み終えて改めて思った。  『アフリカン・ポップス!』。この本は「文化人類学からみる魅惑の音楽世界」という副題がついている通り、「同時代のアフリカとともに生きるフィールドワーカーたちが、それぞれのディープな経験を基軸に」「アフリカン・ポップス」を「論じ、語る」本である。  7人の研究者たちのフィールドは、カーボ・ヴェルデ、タンザニア、ギニア、コートジヴォワール、ジンバブエ、ナイジェリア、エチオピア、カメルーンとあちこちであるが、西アフリカの国々が多いかな。

 目次は以下である。 

 第1章 カーボ・ヴェルデのクレオール音楽(青木敬)  第2章 タンザニアのスワヒリ歌謡、ターラブの1世紀(檜垣まり)  第3章 伝統とモダンのあいだ――あるグリオ一族の歴史(鈴木裕之)  第4章 闘争の唄、チムレンガ・ミュージック(松平勇二)  第5章 情報で世界とつながる――アビジャン・レゲエの成立と展開(鈴木裕之)  第6章 フェラ・クティのアフロ・ビートと、ナイジェリア音楽(塩田勝彦)  第7章 イマジネーションの共振――エチオジャズの世界的展開(川瀬慈)  第8章 エチオピア表象の理想をめぐるジャム・セッション(川瀬慈)  第9章 カメルーンの若者たちが望む世界――ヒップホップ・ミュージック制作現場から(矢野原佑史)

📷 自分の知っている音楽は食いつきやすい。第2章のタ―ラブはよく聴く音楽でもあるし、筆者の檜垣まりさんも知っているので、アラブ系の音楽であったタ―ラブがダルエスサラームでどのようにアフリカ系住民に愛されてきたか、ミュージカル・クラブの役割やスワヒリ語とタ―ラブの関係や、「黙って耳を傾けるもの」から「踊るもの」へ変わってきたタ―ラブなど、興味深い話が満載だった。檜垣さんの「タ―ラブ愛」も伝わってくる。

 第5章のアビジャン・レゲエの話もまだダルエスサラームでカセットテープで新譜が売られていた時代、同時代にアルファ・ブロンディのアルバム『Masada』を当地で購入してよく聴いていたので、音楽を頭のなかで鳴らしながら読み進めることができて、楽しかった。アルファ・ブロンディの「ぶっ飛んだ」生い立ちは、初めて知った。レゲエがタンザニアでも人気があるということもこの章に親しみを感じる一因だったのかもしれない。おんなじ所、あるあるって感じで。

  でも、自分のよく知らない音楽の話は、文章を読み進んでも、想像で補いきれない部分があり、ちょっと難しい。第1章はわたしにはあまりなじみのないカーボ・ヴェルテが舞台だった。15世紀にポルトガル人によって発見されるまで無人島だったこの島々では、入植した人びとと強制連行されてきたアフリカ人との血が混じり合い、独自のカーボヴェルテ人が形成されていったのだという。ブラックアフリカとはまた違った容貌であろうその人びとを紹介する写真が少なくて、ちょっと残念だった。ミュージッシャンのアップの写真などが欲しかったかな。故郷への愛と痛みを織り混ぜたような「ソダーデ」という言葉を伝える「モルナ」という島民に愛されている音楽というのも、載せられている訳詞を読みながら想像していたが、現在世界にはYoutubeという便利なものがあることに気付いた。最も有名な歌手と紹介されていたゼザリア・エヴォラ(Cesaria Evora)の『ソダーデ(Sodade)』という曲をYoutubeで聴いてみた。タンザニアで想像するアフリカン・ポップスとは全然違う。少しボサノバを思わせるような悲しげな魂を揺さぶるような曲調なのだった。  曲を聴いてから本文を読み返してみると、もっと世界が膨らんでみえてくる。

  第7章のエチオジャズについてもしかり。比較的近くの国なのにそういう音楽があることすら知らなかった。20世紀初頭のエチオピアでアルメニア人孤児たちによる音楽隊が4年の契約で雇われ、その後のエチオピアの音楽シーンに大きな影響を与えたということも初耳だった。契約が終わってからも約半数がエチオピアに残ったというのもおもしろい。エチオピア北部では音楽を専業にする職能集団がいて、社会から蔑視される傾向にあったとか(マンデ社会におけるグリオにもそういう面があったそうだが:第3章)、エチオピア随一の音楽養成機関ではエチオピア音楽を演奏することは教師によって禁じられていたからクラシック音楽とピアノの演奏を学んだ音楽家サミュエルの話とか、タンザニアとのカルチャーギャップを感じたのだった。  アフリカは広い。

 そのエチオジャズの父といわれるムラトゥ・アスタトケ(Mulatu Astatqe)とエチオピアを代表するピアニストというサミュエル・エルガ(Samuel Yirga)の曲もYoutubeで聴いてみた。前者の60年代から70年代の曲は、懐かしさのなかにエチオピアの風が吹いているような風通しのいい、でも初めて聴く曲調だった。最新アルバム『Inspiration Information 3』はロンドンのバンドとコラポしているそうだが、洗練された斬新なメロディが流れてきた。わたしの頭のなかにあるアフリカン・ポップスのジャンルにはなかった曲調だ。そしてまだ若きサミュエル・エルガの『The Blues for Wollo』という曲は女性ボーカルも入っていて、そのメロディが日本の民謡の曲調にも似ていて、悲しげで深いピアノと切ないような弦楽器の音色にしみじみとした懐かしさでゆさぶられるような曲なのだった。不思議な感覚だ。

  各章には、それぞれCD紹介がついているので、興味を持った音楽を深めることもできる。

 アフリカは広いと改めて思ったけれど、それぞれの場所で音楽が愛されていることには変わりがない。この本のおかげで、それにまつわる人々の姿が生き生きと見えてくる感じがする。

 また、各フィールドワーカーとその音楽や社会との個人的な関わりから掘り下げていくので、読者が入って行きやすいということもあるだろう。だから、あえて書き方などを揃えなかったそうだが、読んでみて、もう少し掘り下げてほしいかなと思う章もあった気がする。また、アフリカの民族についても「〇〇人」で統一されていず、「ショナ族」と書かれている章があるのが残念だった。現代を生きる人びとを「〇〇族」と呼ぶ必要がないし、それは差別につながると認識しているからだ。

 『アフリカン・ポップス』で魅惑のアフリカ音楽世界がさらに広がったことに感謝。まだまだアフリカは広いので、現在の研究はもちろん、まだ研究者が入っていない国や地域で新たなさらなるアフリカのポピュラー音楽研究が深まってゆくことを期待して。『アフリカン・ポップス!Ⅱ 』を今から心待ちにしている。

 『アフリカン・ポップス!』 鈴木裕之/川瀬 慈 編・著  明石書店   (2,500円+税)

                                                           (2015年5月15日)

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