白川
タンザニアからの手紙 No.6 タンザニア映画「Tumaini」
金山 麻美(かなやまあさみ)
最新のタンザニア映画を見た。 まだ朝が明けきらないほの暗い水面。港にゆっくりと大型の船が入ってくる。けだるく切ないトランペットの音色が聞こえている。なかなかスタイリッシュな出だし! そして画面は船から降ろされた棺を映し出す。
今年の2月5日に「Tumaini」というタンザニア映画がプレミア上映されたということは、Daily News というタンザニアの英語新聞で知った。見てみたいなと思っていた。ハリウッドの最新映画の封切りが自慢のNew World Cinema で上映しているのを知り、先週末に見に行ってきた。タンザニアの映画を映画館で見るなんていうのは、何年ぶりだろう。上映されていること自体が滅多にないのだけど。入場料は、通常の3分の1の額の2,000シリング。土曜日の夕方からだったが、130席ほどの座席は3分の1弱くらいしかうまっていなかった。タンザニア人らしき人と欧米人らしき人が半々くらい。映画は、スワヒリ語で英語字幕がついた。
引き取られた先の叔父さんと叔母さんにお父さんの残したお金を騙し取られたり、こき使われたり、貶められたりするのに我慢ができなくなった弟が家出をすると、心配したTumainiは弟を探しに行く。弟は大都市ムワンザでストリートチルドレンの仲間に入れてもらうが、慣れないバナナの盗みをさせられ、店の人に捉まる。とがめられているところを 改心した叔父さんに見つけ出される。そのころTumainiは、ストリートガールに弟を知っているという男を紹介される。が、こいつは口先だけで、実は弟のことなど全く知らなかった。この男に襲われそうになっているところを叔父さんと、弟を仲間に入れたストリートチルドレンのリーダーの男の子Meshweに助けられる。Tumainiの要望でMeshweも連れて一緒に叔父さんの家に戻る。しかしTumainiは、姉弟たちだけで元いた家で暮したいと言い、叔父さんと叔母さんの承諾を得る。
叔父さんの商売(漁業)が波に乗り、Meshweも実は働き者でとても良い青年で、Tumainiは学校に行きながら叔母さんの美容院で髪結いの見習いも始めて‥と全てがうまくいきかけたときに、叔父さんの病気が発覚する。エイズである。映画の前半に叔父さんがバーで出会った女性と関係をもつということを暗示するようなシーンがあった。実は、Tumainiの両親もエイズで亡くなったのであった。叔母さんが「自分がエイズにかかったと広まったとたんに美容院に客が来なくなった」と悲しそうに話すのが印象に残っている。 映画の後半でTumainiの血縁のたくさんの墓標が映し出される中に叔父さんと叔母さんと一番下の妹のものも入っていた。
しかし、Tumainiは残された叔父さんと叔母さんの子どもたちとともに生活を切り拓きながら学業も続けていく。もう、くじけないし、あきらめない。Meshweとも恋仲になるが、「まだ私は学校で勉強を続けたいから、その間はコンドームを使うことを忘れないでね」と釘をさす、しっかりもののTumainiとなるのであった。
3月ほど前の眠れない夜にテレビをつけたら、たまたま子どもが主人公のタンザニアで制作されたドラマか映画をやっていた。ユニセフの援助で作られたものだったように思う。モロゴロが舞台だった。継母にいじめられた姉弟が家出して、列車に乗り込んでダルエスサラームまで行き、ストリートチルドレンになったり、お姉さんのほうが小金持ちのタンザニア人に連れて行かれて、ただで家事労働をさせられた挙句にその家の主の男に襲われそうになったりと、エイズの問題は出てこなかったが、似たような事件の起こる話であった。この場合は、モロゴロの村の長が子どもたちを捜しに出かけてきて、見つけて連れて帰った後、村の会議の中で実の父親を改心させるという結末だった。
「Tumaini」は、原作者や監督はタンザニア人だが、南アフリカの映画会社の協力と在タンザニアのノルウエー大使館の援助でつくられたそうだ。カメラ技師などにもノルウエー人らしい名前が見られた。 監督のBeatrix Mugishagweは、「ハリウッド映画が文化や政治面での影響に効果的に使われているということを考えなければ。タンザニアのような国にとって必要なのは国の優先事業のひとつとして映画製作をすることだ」と述べている。*
National Aids Control Programme の調査によるとタンザニアでは、200万人以上の子供がエイズによる孤児となっているそうだ。問題は根深いが、映画のTumainiのように強く生きていく女の子の姿を見ることは、それに関係する人たちにとって大きな励みとなるだろう。それに映画「Tumaini」は、カメラワークもきれいで、ビクトリア湖の遠景などはうっとりするようだったし、それぞれの俳優もよい味をだしていて、笑わせてくれるような場面やタンザニアならではの和みの場面もけっこうあった。(近所のおじいさんがTumainiのおばあさん目当てて毎朝いろいろと理由をつけてはチャイを飲みに来るところなどは笑ってしまった。)
でも、タンザニアのような国だからこそ啓蒙映画でなく、わくわくドキドキするような映画を作れたらいいのに!と思う。タンザニアやタンザニア人のいいところを世界の人たちに知ってもらうことができるような。一緒に踊ってしまえるような。 実はとってもすてきな案を暖めているのだけど、これが実現することはまあ、ないのだろうな。金も力も足りないし。でも、もし興味のある人がいたらぜひご一報くださいな。
*2月5日のDaily News の記事より。写真も。
(2005年6月15日)