
白川
タンザニアの片隅で 第3回 バオバブの夕焼け
鈴木沙央里(すずき さおり)
以前ムベヤへ向かうバスの中、イリンガの手前で出会ったバオバブの村に魅せられた。 どれもこれもバオバブ。でも窓から釘付けになってみていたバオバブたちは、どれもこれも違っていた。
雄大なアフリカを感じさせる巨木、それがバオバブ。 立派な幹に、空に向かって伸びた枝。時代を生き抜いてきたものたちがもつ、年代をきざむ模様。
ああ、そうか。先人たちはこういうところに神秘なものを見出してきたのだ。 時折すぎていく、よりいっそう力を放つバオバブの老木。 こんな木には何かが宿っているに違いない。
いつかこの村に降り立ちたい。
そして先日、今度は北のバオバブの地へ行って来た。タランギーレ国立公園、別名バオバブ公園。象とバオバブの地。
目の前に広がるのはバオバブと象の群れ。
小象が一頭、顔をだす。そしてまた、大きな象の後ろへと姿を隠す。 あれは母象だろうか。どこの世界にもみる母親のまなざし。
その後も私たちは彼らの住む場をお邪魔した。 シマウマに、ディクディクに、水場に休むハイエナもみた。
もう、こんな風にして彼らに出会いにくる人々には慣れているのだろう。車が近づいても逃げるぞぶりもみせない。そしてそんな彼らに望遠レンズを向ける観光客たち。 サファリはいいな。でもまだまだ私には動物たちの世界は遠いのかもしれない。
少しだけ、この世界に近づけた気がする。 まだまだほんの少しだけだけれど。
翌日、ンゴロンゴロでのクレータードライブの後、ロッジでの夜。 外は満天の星空。 ダンスと太鼓の時間が用意されていた。タンザニアのいろいろな地方の伝統音楽。 ホールに響く太鼓の音。勢いよく動き出す長い手足。太鼓の音に合わせて腰を振る。
ああ。タンザニアには原色だな、そう思う。 夕焼けに染まる、あの黄金色のやわらかな草原もある。
でも一方で、タンザニアにはあわい水彩絵の具ではなく、どぎついくらいの原色の色が織り成す世界がある。踊りや、音楽や、人々の振る舞いや。
闇の中光る白い歯。大きな笑顔。 一瞬私の頭を覆う天井と床がとんで、青空と赤い土がみえた。踊り子たちを囲む群集。きゃっきゃ、きゃっきゃと体に素直にはしゃぐこどもたちの声。 どこかのタンザニアの村にいるような、そんな錯覚を覚えた。 これはいつの記憶だろか。 ああ、錯覚ではないその本当の経験がしたい。
日本からサファリに行きたいという友人がきたら、個人的にはタランギーレをすすめよう。象とバオバブの地。 でもやっぱり村の滞在もなくてはならないな。人々と笑顔をわかちあえる、その喜びは大きいから。
(2007年9月15日)