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タンザニア歳時記・12月 ― 断食月にキンゴルウィラ村へ行く・その1―

金山 麻美(かなやまあさみ)

  タンザニア在住13年になる私ですが、このたび初めて断食というものをしてみました。といっても一日半だけですが。

 我が社のスタッフ、グビさんはモロゴロにあるキンゴルウィラ村の出身です。この村のほとんどはムスリムで、グビさんもラマダンには必ず断食をします。今回、ぜひとも断食のあとのご馳走を食べに行きたいと思い、そのためにはやっぱ一日だけでも断食をしたほうがいいよね…ということで、ラマダン中の11月某日、私は朝から飲まず食わず、息子の篤史(12)は、朝食は摂るがその後は日没まで飲食を断つということで、キンゴルウィラ村に向かいました。ダルエスサラームから車で約3時間。同行した運転手のムワリムさんもムスリムで断食中です。

 この時期のダルエスサラームやモロゴロの暑いこと。キンゴルウィラ村に着いたのが、お昼の12時頃。休暇を取って単身で来ているグビさんが出迎えてくれました。いつもなら、家に入ってまずチャイでも…というところなのですが、もちろんなし。グビさんの家の応接間でしばし歓談した後は、外のほうが涼しいということで、木陰のゴザの上でダラダラ過ごしておりました。たしかに時折風が吹いてくるのですが、熱い空気や砂塵が混じることもあり、快適とは言いかねます。目の前の赤土の道を自転車がほこりを立てながら通り過ぎます。五、六年前に来たときよりもポツポツではあるけれど、家もだいぶ増えました。今の流行は赤土レンガ造りトタン屋根の家のようですが、熱い空気の中では、その家すらゆらゆらゆれて見えるような気がします。

 それでも、道端を過ぎ行く人に挨拶したり、隣の家の男の子が洗濯するのを観察?したり、子供たちをからかったりしているうちに、のらりくらりと時は過ぎてゆきます。  横になりたいなあと思いましたが、部屋の中はもっと暑いし、通りかかった近所のおじさんが「ラマダン中に昼寝をしすぎると熱を出す」と大声で吹聴していったので、ゆっくりゆっくりすすんでゆく腕時計と時々にらめっこをしていました。

 篤史は3時過ぎ頃から「お腹がすいたー」を連発していました。育ち盛りにはつらいかな?私は、幸い、お腹はそれほどすかないのですが、(普段の不摂生のせい?)4時を過ぎる頃からのどの渇きがつくなってきました。口の中がべとついてくるのです。他のムスリムに聞いても、ラマダン中、空腹はそれほど応えないが、きついのはのどの渇きだという答えが返ってくることが多いです。  グビさんによると去年は、村の大人のムスリムのほとんどは断食をしていたが、今年はしていない人も多いということでした。「なぜ?」ときいてもはっきりした答えは返ってきませんでしたが、去年より暑いからでしょうか?

 日の光がすこしやわらかく感じられるようになった夕方5時頃、時計を見たグビさんが「そろそろだな」と立ち上がるので、元気は出ないけれど座っているのにも飽きてきたムワリムさん、私、篤史は、歩いていくグビさんについて行きました。

 雑草混じりの赤土の道を少し行くと、マンゴ先生が家の前のやはり木陰で科学の本を読んでいました。マンゴ先生はグビさんはもちろん、私とも十年来の知り合いで、出会ったときには村の小学校の校長先生でした。校舎を増やしたり、校庭を整備したり、親たちを巻き込みながら、学校環境を整え、子供たちがより快適な学校生活を送ることができるようにと心を砕いていた人でした。

 今は、校長を辞め、北欧系のNGOと協力しながら、この村だけでなく、もっと広い範囲で学校をよりよくしていくために、活動しているそうです。  「資金を自分たちで作るために、生徒や親たちが鶏などを飼ったり、畑を作ったりという自助努力も奨励している」 と言っていました。

 「ココナツジュースをご馳走しよう」ということで、ココナツもぎに長けた村の青年たちと、マンゴ先生のシャンバ(畑)まで行くことになりました。そこから歩いて20分くらいのところです。グレーに霞む山の連なりが遠くに見えます。畑といっても日本のものをイメージするとだいぶ修正せねばならないでしょう。どちらかというと、ジャングルとまでは行かないけれど、藪の中を入っていく感じです。枯れかけたトマトなども植わっているのですが…。  その畑の中に何本かそそり立つ椰子の木が今日のお目当てです。村の青年は、裸足になってココナツの幹の節目節目にうまく足を這わせながら器用に登っていきます。誰でも出来るわけではないそうです。ドドンと落ちてくる椰子の実をもう一人の青年が、パンガ(なた)で器用に表面を削り取っていきます。

 時刻はすでに六時。「味見してみたら」とマンゴ先生がおっしゃったけれど、「みんな断食してるんだよ」とグビさん。もう六時だし、せっかく畑まできたのだから、もぎたてをかぶりつきで飲ませてくれるかも?と、淡い期待をしていたのに…。口の中は日干し魚のようにカラカラ。断食をしていない村の青年の一人がゴキュゴキュと飲んでいるのを、文字通り喉から手が出そうな気分で見つめていたのでした。

 それぞれが両手にひとつずつ椰子の実を持って、帰路につきました。マンゴ先生からの嬉しいプレゼント。でも、グビさんの家に着くまではおあずけ。空が白っぽく霞んでカルピスみたいな色になってきました。もうすぐ夜が来ます。

(2002年12月5日)

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