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  • 執筆者の写真白川

タンザニア歳時記・No.15 椰子の木切り

金山 麻美(かなやまあさみ)

 広いだけがとりえの我が家の庭。タンザニア人の大家がお金がなかったものだから、2軒分の敷地に1軒しか家を建てられなかったということだ。

   オレンジ、マンゴ、スターアップルなど実用的な木々が並ぶ庭にはもちろんココ椰子の木だってある。ココ椰子の数、なんと7本。しかし、そのうちの3本がしばらく前から実はもとより葉もつかなくなり、はげ坊主の1本の棒状態と化していた。庭師のハミシが、「これは切らないとそのうち突然倒れたりするのであぶないよ」と言う。

 実は、以前、1本椰子の木を切ったことがあり、そのときにやってきた自称「椰子の木切りのプロ」の兄ちゃん3人組は、口はうまいが、腕はからきしだった。1本の椰子の木を切るのに1日がかり。わたしも知らないので最初はそんなものだと思っていたのだけど。 絵本で見るきこりのように1度で切ると危ないので、3つくらいのパーツに分けて切ると最初、胸を張って話していたのに、結局長いままなぎ倒し、電話線は切られるわ、庭の囲いの石は割られるわで後始末がたいへんだった。

 そういう過去もあるから、二の足を踏んでいたのだが、ハミシが「腕のいいのがいるから大丈夫」と太鼓判を押すので、ほおっておいて椰子の木にぺしゃんこにされてしまうのもやだしなと頼んでみることにした。

 とはいえ、椰子の木はその家の財産とも言われる大切な木。幹は立派な木材や家具などにも使われ、葉は屋根を葺いたり、籠や箒にしたりできるし、その実は飲み物、ココナツミルク、油などに使われ、その固い殻は、炭、燃料、食器などさまざまな使い道があるのだ。ヤシ酒というのもあるしね。  だから大家の承諾が必要ということだが、これは問題なくクリア。

   さて、ハミシが連れて来たその道のプロのマトゥンドゥ。30代半ばくらいで中肉中背の男性だ。値段交渉に入る。  「1本切っていくら?」  「手伝いも2人必要だから、2万シリングだな。そのかわり、後片付けも全部やる」  「3本頼むから安くして。時間はどのくらいかかるの?」  「それだと3日間かな」やはりそのくらいかかるのか…。  結局全部で4万5千シリング。1本1万5千シリングで交渉成立。ちょっと高いかなとも思ったが、危険を伴う仕事だしね。

 さて、翌朝8時に麻縄を持って2人の手伝いの若者とともに颯爽と現れたマトゥンドゥ。まず、椰子の木にはしごを立てかけ、立てかけた先の幹に板を打ち付け、足場ならぬ腰場を作る。腰場のちょっと上くらいに長い縄を縛り付けておく。ある程度切り目を入れた後で地べたからその紐を引いて倒すのだ。その後、両足を30cmくらいの麻縄でくくってパンガ(鉈)を手に持ち、その麻縄を椰子の木の幹の節々に引っ掛けながら腰場まで器用に登っていく。腰場に到達すると麻縄を取り、板の上に腰掛けてパンガを振るうというわけだ。  この作業をしているとき、一応、腰と木の幹は麻縄で結んであるけれど、地上2mの高さはあるところなのでちょっと恐い感じがするが、さすがプロなのか切っている最中に体が揺らぐことはなかった。

 周りが削り取られて幹のまん中だけつながっているようになると、いよいよ紐を引く作業に入る。2m以上の高さから斜めに引っ張られる紐の先には庭師のハミシも入れて4人の男がいる。もちろんさっきの木こりも今はこちらに加わっている。彼らの表情を見るとなんだか楽しそうである。(帽子をかぶっているのがマトゥンドゥ、その後ろがハミシ)  私は椰子の老木がまん中から折れる瞬間をカメラにとろうと待ち構えた。4人が引いても一度では倒れない。そのうちメキメキメキッと音がし始め、いよいよ!ということで興奮しながらシャッターを押したが、肝心の倒れる木は写っていなかった。とがっかりしてよく見たら、下のほうに落ちかけのがかろうじて映っていた。ご覧ください!

 そのあと、木の幹の下のほうを普通に木を切るように鉈で切って倒すと椰子の木切りは完了。切り株は残る。片付けも残っているが。幹は倒れた時の衝撃で崩れて空洞の中身をのぞかせていた。 「こんなにスカスカになってたんだから、ほおっておいたら今にでも倒れていたかもよ」と一仕事終えたマトゥンドゥが汗を光らせながら嬉しそうに言う。  しかしここまでにかかった時間は2時間半くらい。なんという手際のよさ。この分だと1日で3本はいけるだろう。

 案の定夕方までに全部の仕事を追えたプロの木こりたちは、約束のお金を受け取って

「なにかあったらいつでも呼んでくれ」と言いながら笑顔で去っていきました。  3日かかると言っていたのに。もう少し値切るべきだったか…。とせこい私はちょっと後悔。でもまあ危険を伴う仕事だし、見ていて面白かったし、このコラムのネタにもなったからよしとしよう。またなにかあったらよろしくね!ということで。

  (2004年12月現在1円=約10タンザニアシリングくらい。ちなみに政府の決めた最低賃金は月50,000タンザニアシリング)

(2004年12月15日)

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