白川
タンザニア歳時記・No.7― オレンジの花―
金山 麻美(かなやまあさみ)
余り雨の降らなかった今年の大雨季も明け、ひんやりと涼しい季節がやってまいりました。この時期、朝まだ暗い6時前に起きだすと、ダルエスサラームの暑さに慣れた私には、肌寒いとしか形容のしようのない空気に包まれます。半そでのTシャツの上に薄手の七部袖のカーデガンを羽織って、家人たちはまだ寝ている中、階下に向かいます。寝ぼけ眼のまま、階段の中ほどまで進むと、ふわぁっとあまずっぱい香りが漂ってきます。ジャスミンティーのような香り。オレンジの木は階段のある場所から20mくらいは離れているのに、そこここに芳しい香りが満ちています。胸一杯に吸い込むと、薄暗い時間の早起きもいやではなくなってきます。ちょっとだけ胸がときめいて、周りもなんとなくほの明るくなったような感じすらします。背筋も知らずのうちに伸びてきて、胸をいくぶん張り気味にして、チャイの用意をしに台所へ向かいます。
庭にはそんなオレンジの木が二本。なかよく並んで立っています。
眠れない夜、水でも飲もうと階下に向かうと薄暗い中から小さな白い花の香りが立ち上ってきます。ほんのり冷たい空気の中に漂う香りに包まれて、立ち止まると、閉じた瞳の中に白い花のイメージが広がって、電気をつけるのがもったいないくらいです。 タンザニアには桜咲きません。こうなったら今宵は、花見ならぬ花聞きとしゃれ込もうと、水ではなく、タンザニアの銘酒コニャギ*にライムと氷を入れて、優しく包んでくれているオレンジの花の香りに乾杯しました。 要するにお酒が飲みたかっただけでしょ、などとこれを読んでつぶやいているあなた、ロマンが足りませんぞ。 この時期はダルエスサラームの空気もやさしく柔らかくなって、心をほぐしてくれる朝や夜が訪れるのです。
*コニャギ…さとうきびベースの透明なあまり癖のない飲みやすいお酒。ライムを入れたり、いろいろなソーダで割ってもそれぞれの味を引き立てておいしい。
(2003年6月15日)