白川
タンザニア Mbali Mbali 第2回 「マサイの歌」
更新日:2019年5月3日
松野下千寿(まつのした ちず)
最近でこそ、アフリカの文化や人々の生活の様子などがマスコミで取り上げられるようになりましたが、ちょっと前まではアフリカ=野生の王国という強固なイメージが先行したように思います。タンザニアに対しても同じで、タンザニアといえば野生の王国、野生の王国といえば、人々が布をまとった全裸に近い格好で、ウホウホと飛び上がって踊っている・・・、そんなイメージを持っている人は少なくはないのでしょうか?
そんな中で、先祖からの生活様式をかたくなに守って、街中でも赤の布をまとい、護身棒をもって歩くマサイの人々は、タンザニア人の中でもちょっと浮いた存在です。他の民族の人からは、「あいつらは変わってる」といって、からかわれたりもします。
そんな状況を風刺した、面白い歌がちょっと前に流行りました。歌っているMr.Ebbo自身、マサイの出身らしく、自分達の状況をラップ調で面白おかしく歌っています。その名も、『俺は、マサイだ(Mi Mmasai)』。以下、長い歌なので、1部抜粋してご紹介します。
(俺はマサイだ、俺はマサイだっていってるんだ) 自分を覆っているこの布は、マサイの誇り (俺はマサイだ、俺はマサイだっていってるんだ) 地域のやつらも、外からきたやつらも驚く (俺はマサイだ、俺はマサイだっていってるんだ) 他のやつらが、諦めて放ってしまった伝統を守っている (俺はマサイだ、俺はマサイだっていってるんだ) アフリカに残る、力強い文化
田舎のロンギトに住むお母さんへ近況を伝えるのに,誰を送ろう お母さんにこう伝えてほしい サレダラマ(1)は本当に暑くて,毎日が大変 俺はまだ帰れない,お金を得るまでは 仕事は,ある家の夜警(2) おいしいお肉(3)は手に入らないから,固くて飲み込めもしない 豆やウガリを食っている
昨日、ソーダを頼んだ ソーダが来たので、器(6)にいれて味見をしたけれど、甘さが足りない 砂糖をスプーン2杯ほど、もしくは蜂蜜がないんだったら1杯でもいいや、 入れたかったんだけれども、周りのやつらは 「マサイってほんとうに田舎もん(Mshamba)だな」という 砂糖の入っていないソーダが、高い値段で売られている 1本頼んだだけで200シリングもする 水みたいなソーダ-で、すごく苦いやつ そんなまずいものをわざわざ売っている やつらはそれを「クラブ ソーダ」(7)と呼ぶらしい
(俺はマサイだ、俺はマサイだっていってるんだ) 自分を覆っているこの布は、マサイの誇り (俺はマサイだ、俺はマサイだっていってるんだ) 地域のやつらも、外からきたやつらも驚く (俺はマサイだ、俺はマサイだっていってるんだ) 他のやつらが、諦めて放ってしまった伝統を守っている (俺はマサイだ、俺はマサイだっていってるんだ) アフリカに残る、力強い文化
(写真上)露店のビデオ屋 ダルエスサラーム目抜き通りサモラアベニューにあるビデオ、CD、テープ屋。 かなりの品揃えですが,ほとんど海賊版との噂も。 (写真下)テープのジャケット Mr.Ebboのテープのジャケット。1200シリング(約150円)也。 (1) ダルエスサラームのこと。マサイの人たちはスワヒリ語をちゃんと話すことができないと思われています。この歌の歌詞全体が、文法間違い、発音間違いの言葉で歌われています.例えば,Mikocheni(地名)がMichokeniになったり、Salimia(挨拶する)がSamiliaになったり…。 (2) ダルエスサラームに出稼ぎに出てくるマサイの人の多くが、この仕事に就いています。何者にも恐れない強い精神力が買われているようです。 (3) マサイの人々の生活の基本は牛です。牛を遊牧し、その糞でうちを建て、牛乳を飲んで、栄養づけに血を飲んで、肉を食べ、皮は敷物に、骨は器に、と1匹の牛も余すところなく使われます。 (4) ダルエスサラームからザンジバルへ出ている高速フェリーのこと。 (5) 割礼を終えた後のマサイの若者を指します。マサイの掟には、一人前の男に認められるためには、ライオンと戦ってしとめなければならないという条があり、ライオンに負けて食べられてしまうということは、その掟にかなわかなった、情けないモランということになるのですが、その屈辱を味わってもよいと思われるほど、魚に食べられてしまうのは彼らにとって大恥なのです。 (6) 「ソーダ」とは、コカコーラやファンタ、スプライトなどのビン入りの炭酸飲料。ここでいう器はBakuliといって,ボール型のおわん。そんなものにソーダを入れること自体、田舎ものである証拠。 (7) 「クラブ ソーダ」は甘味のない、ソーダ水の商品名。
※タンザニア Mbali Mbaliは、スワヒリ語で「いろいろなタンザニア」という意味です。このコーナーでは、タンザニアのちょっとしたスポット、風景やイベントなどを取り上げてご紹介しようと思います。
2002年8月