Bwaga Moyo No.3 おいしい魚が届くまで
川田真弓(かわた まゆみ)
2006年3月 バガモヨにて
2006年3月、タンザニアに訪れて3回目となるが今回は一番長い旅。バガモヨでイリンバの修行をして早2ヶ月が過ぎた。バガモヨとは、ダルエスサラームの北方約70kmにあり、現在コースト州バガモヨ県の県庁所在地である。人口数千人の漁業と農業の静かな町であったが、近年手軽に行くことができる日帰りが可能な観光地として、開発が進んでいる。そんなバガモヨの町で、今日はイリンバの先生の副業である魚売りを手伝わせてもらうことになった。
朝の4時半過ぎ、いつもより早起きをして魚市場に出かけた。外はまだ真っ暗で浜辺までの道はとても静かであったが、魚市場に着くと漁師や買出しに来る人々で大変にぎわっている。船から次々に新鮮な魚が届き、浜辺に魚を並べ競りが行われ、バケツいっぱいの魚を洗う漁師や、揚げ魚にして売っているお店など、本当にどこからこんなにもたくさんの人が集まってきたのかと思うくらい活気がある。私もイリンバの先生に付き添ってダガーという小魚をバケツ一杯分購入した。いつもはもう少し大きい魚を買うそうだが、その日のお金の持ち合わせに応じて適当な魚を購入するらしい。魚市場にはダラダラという庶民のバスも何台か行き来している。魚市場で仕入れた魚を町へ売りに行く人のためである。
先生と私もぎゅうぎゅう詰めのダラダラに乗り、ダルエスサラームの町へ向って約30分走った。いつも移動の時はダラダラを使うが、今日ほど魚臭いダラダラは初めてである。マンゴーや野菜を大きな袋いっぱいに詰めて乗り込む人もいる。ダルエスサラームの中心街から少し離れた小さな町で降ろしてもらい、早速重いバケツを持って魚売りの開始である。「ダガー・ムチェレ(新鮮なダガー)」と叫びながら民家の小道を歩いていると、家の外で料理中の女性やお使いを頼まれた子どもたちがお皿を持って魚を買いにやってくる。値段は目分量で決めていたが、お茶碗一杯約Tsh200(約20円)。タンザニアでは女性が家の外で料理を作るのが一般的である。都会では日本のようにガスや電気を使って家の中で料理をすることもあるが、多くは近所の人たちとおしゃべりをしながらゆっくり外で料理をする。子どもたちは泥だらけになりながら元気よく遊び、母親の家事の手伝いもする。いつもは長時間歩き続けてようやく売れる魚も、今日は私も一緒に付き添っていたので、珍しい光景に皆大満足で、1時間ほどで売れてしまった。
バガモヨへ戻り、売り物とは別に買ってきた魚を一緒に料理した。タンザニアで魚は揚げて食べることが多い。塩とレモン汁をかけて干し、カリッカリになるまで揚げる。これがまた何ともおいしい。日本ではスーパーマーケットでしか魚を買ったことがなかったが、今日一日仕事を手伝わせてもらって、自分の食べる魚がどこからきているのか、自分の食卓に届くまでにどれだけ多くの人が関わっているのかということを目にし、おいしい魚が食べられることは本当に有難いなと痛感した。魚を売りながら、素朴で温かいタンザニアの生活を垣間見ることもでき、私もこのように幸せに生きたいと感じる一日だった。 今度は魚を釣るところから手伝わせてもらおうと交渉中◎
(2009年10月15日)
*「Bwaga Moyo」とは、スワヒリ語で「ここに我が思いを残す」という意味です。 2005年に初めてタンザニアを訪れてからずっとこの地に思いを残してきました。 なぜこんなにも惹かれるのか… その理由を少しずつ紹介したいと思います。