• 白川

Habari za Dar es Salaam No.111   "Bajeti 2011/12" ― 新年度予算案 2011/12年度 ―

根本 利通(ねもととしみち)

 6月8日、新年度予算案が発表になった。昨年の総選挙で存在感を増した野党CHADEMAは影の内閣を作り、予算案の発表前から、自らの主張を公表していた。東アフリカ諸国には北アフリカ諸国(エジプト、チュニジア、リビア)の激動の影響がある。世界的な石油価格の高騰の中、インフレ、国民の生活苦に対し、政権与党の腐敗汚職が適切な対応を妨げているという野党側の攻撃を受けている。タンザニアでも例外ではなく、電力問題の悪化の背景が人災の色が濃くなり、かつ公務員の高額年金二重取りの暴露などから、政権与党は防戦に必死である。歳入不足も明らかで、政権与党がどういう予算案を組んでくるかが関心の的だった。

📷 予算案の入ったブリーフケースを掲げる蔵相。 『Citizen』2011年6月9日号  6月9日の新聞の見出しは、政府系か、非政府系によって、かなり分かれた。英語紙『Daily News』は「甘酸っぱい予算」、『Guardian』は「庶民のための予算」、『The Citizen』は「成長を促す」、『The Express』は「空っぽのブリーフケース」だった。大蔵大臣は国会議事堂に入る前に、予算案の入ったブリーフケースを報道陣に高く掲げて見せるのが恒例になっている。

 スワヒリ語紙の『Mwananchi』は「予算ー石油減税、ビール、タバコ、ソーダ増税」、『Mtanzania』は「希望の予算」、『Nipashe』は「食料を切った予算」、『Majira』は「理解できる予算」といった感じである。ただ、このスワヒリ語紙の、特に『Nipashe』の見出しは、解釈が微妙である。「食料」がまさしく「食べ物」を指しているのか、公務員の食べもの、つまり「手当」を指しているのか、オフィスのスタッフの中でも意見が割れた。今回の予算案では、国家公務員の不必要な手当は削られたが、一方で、公務員の手当への所得税もなくなった。より多くのかつ多様な人びとに読まれるスワヒリ語新聞の、両面性戦略かなと穿って読んでしまう。

 新年度予算案の発表前に2010年の「経済概況」報告がある。それによると2010年の経済成長率は7.0%で、2009年の6.0%を上回ったという。2011年の見込みは7.0%となっている。また2010年のGDP(本土のみ)は32兆2935億シリングで、国民一人当たりの所得はTsh770,464となっているが、これは人口の2010年推計(4,191万人)を使っている。年間の為替平均は$1=Tsh1,432.3だそうだから、$538くらいということになる(2009年は$508だった)。

 第一次産業(農林畜産水産業)の伸びは4.2%だったのに対し、製造業の伸びは7.9%で、GDPに占める割合も2009年の8.6%から9.0%に伸びた。産業別に成長率が高いのは、2009年(21.9%)に続き、22.1%を記録した通信業である。インフレ率は2010年12月は5.6%だったが、2010年1月に6.4%と上がり、4月段階で8.6%まで上がってきている。

 同時に、中期5年計画(2011/12~15/16年度)も発表された。

 昨年度の予算案との対比を見てみよう。  (1)今年度の歳出:13兆5259億シリング(前年度比16.5%増)    ・通常予算:8兆6003億シリング(前年度比10.4%増)    ・開発予算:4兆9246億シリング(前年度比28.9%増)  (2)今年度の歳入     ・国内の税収および非税収入:6兆7760億シリング(前年比12.9%増)    ・地方政府の収入:3505億シリング(前年度103.0%)    ・外国からの借款、贈与、援助:3兆9236億シリング(前年度比19.8%増)    ・国内外からの借款:1兆2043億シリング(前年度比9.5%減)    ・商業的借り入れ:1兆2716億シリング(前年度比59.4%増)

   結局、自己の歳入(地方政府収入を含む)の比率は52.7%で、前年より0.8%落ちた。いわゆる外国の援助依存率は29.0%(前年は28.2%)でそれをカバーし、それ以外の国内外からの借り入れが残り18.3%(前年と同じ)を占めるという計算になる。

   各省庁別の予算を見てみよう。   ・インフラ省:2兆7814億シリング(前年比84.8%増)   ・教育省:2兆2830億シリング(前年比11.6%増)   ・保健省:1兆2091億シリング(前年比0.3%増)   ・農業省:9262億シリング(前年比2.5%増)   ・水省:6216億シリング(前年比56.3%増)   ・エネルギー省:5393億シリング(前年比64.8%増)

📷 18省+議会の予算より重たい役人の手当。 『Citizen』2011年6月10日号  ただ、シリングの為替レートの2010年の間の下落は、8.5%であったから、その分割り引いて考える必要がある。2010年12月には$1=Tsh1,450 くらいだった。

 この主要6省庁の予算合計は、8兆3606億シリングとなり、総予算の61.8%を占める。昨年度が55.0%だったから、その比重は増している。この6省庁の中でも、今年はインフラ、水、エネルギーの伸びが目立つ。

主要な税額の増減を見てみよう。増税はやはり、タバコ、ソフトドリンク(炭酸飲料)、ビール、アルコールなどの嗜好品にかけられている。これは毎年のことで、今年度の値上げも小幅(ソフトドリンクは1リットル6シリング、国産ビールは23シリング、輸入ビールは38シリング、タバコは1本1.5シリングなど)ではあり、US$換算すれば、ほとんど変わらない。また、NGOのVAT免除も廃止される。

 さらに交通違反にかかる罰金は、今までは一律2万シリングであったが、今回から5万シリングになった。なんでも原案では30万シリングであったらしい。さすがにそれはなくなったが、今まで交通警官に止められると、2万シリング払う代わりに、5千とか1万シリングを袖の下で渡して見逃してもらうのが常態だったが、これからは2万シリングなるだろうといわれている。警官の給与アップの代わりの方策だろうか。同じ日の新聞に「役人に贈賄する人間は87%」と書かれていた。(最終的に交通違反の罰金は、3万シリングに減額された)

 減税もしくは免税になったものは、次のものである。プラスチックバッグ。水産物輸出の税金の軽減。魚網、漁具、鶏餌、農業機械関係で、組織的農業に使われる脱穀機、米の乾燥機、耕運機などの部品の輸入にかかるVATが免除になった。また、大型バス、トラックの輸入にかかる関税も軽減された。

 焦点であったはずの石油価格の引き下げがなかなか見えてこない。インフレの5月速報値は9.7%に達したという。農村から食料を運ぶ輸送費を下げるために、石油関係の諸税はわずかに引き下げられた。しかし、現在は政府だけで決められない部分があるようで、ガソリンスタンドの小売価格は下がらない。そうこうするうちに、予算案の発表前には$1=Tsh1,530 前後であったシリング゙が、月末には1,600まで下落してしまい、少しばかりの税の引き下げは焼け石に水だろう。

 ザンジバル自治政府の予算案は、今年は連合政府のそれよりも遅れて6月15日に発表された。総予算は、6138億シリングであるから、前年比38.1%増加である。その内歳入目標は2212億シリングで、前年比28.8%増加。依然として海外からの援助に頼る比率が高く、自前の歳入は38.1%に過ぎない(前年は38.6%)。公務員給与のアップもない代わりに、増税もしない。通常予算に比べて開発予算の方が多く、60.6%を占めている。

 さて、今年の予算案の発表を読んで、ひどいなと思ったのは、「公務員の手当に対する所得税の撤廃」という項目だった。公務員の一定以上のランクになると、出張などの手当がかなり多くなる。例えば、地方の会議に出張するとその宿泊日当以外に、会議出席手当などがつき、給料を大幅に上回る手当を受領する役人も少なくない。公務員給与の値上げが見送られた代償としての措置かと思われるが、お手盛り感がぬぐえない。つまり、民間会社の給与は自由に決められる(職種に応じた最低賃金制度はある)が、社会主義時代の名残で、公務員の給与のアップに準じてということが多い。従って、公務員給与のアップが見送られると、民間の給与には波及しないのだが、手当の所得税免税は民間にはないから、不公平感が漂う。また、そもそもタンザニアの給与生活者は少数派で、圧倒的多くは農民などのインフォーマルセクターだから、うまみは全くない。

📷 国会での野党議員と議長の論戦。 『Mwananchi』2011年6月14日号  これは揉めるだろうなと思ってみていたら、案の定、翌日から国会、新聞で大論争になった。まず、対象となる公務員の手当が総額で、9870億シリングで、総予算案の7.3%となることが、新聞で報道された。「手当は18省と議会の予算より多い」という第一面が踊った。予算案の歳出の中に「給与」という項目があり、3兆2703億シリングとなっている(予算案の24.2%)。その中にこの「手当」は含まれているのだろうと思われるが、そうだとすると「給与」に対する「手当」の比率は、30%を超える。

 さらに野党CHADEMAの影の内閣の蔵相で、野党陣営の副代表であるカブウェ(Zitto Kabwe)が、自分の手当を返上し。自分の選挙区のキゴマ開発基金に寄付すると言い出したのだ。国会の開催中、議員に支給される手当は、宿泊日当7万シリング、出席手当8万シリングの合計15万シリングだという。カブウェが問題にしたのは、出席手当(Sitting Allowance)だ。いはく「国会議員として国会に出席するのは仕事である。私は給料をもらっているのだから、さらに手当は要らない」という極めて妥当な論理である。しかし、これは、国会の審議の答弁のために、ダルエスサラームからドドマへ赴く高級官僚の手当にも波及するから、そう簡単にはいかない。与党側、特に国会の議長であるアンナ・マキンダが、「国会議員として法律を守れ。守れないなら、国会から除名する」と脅すと、カブウェは「除名するならしてみろ。私は手当は要らない」と応酬し、険悪になった。CHADEMA以外の野党の議員の中からも「手当返上」に同調するものが現れ、さらには与党CCMからも同じような動きが出かけた。さらに折からタンザニア訪問中のドイツ元大統領から「援助国としての関心」が表明されるなど、内政干渉といわれかねない圧力もあった。

 ピンダ首相は国会答弁で、「手当を受け取るのは憲法で規定されている」とやって、「憲法解釈」がおかしいと非難された。国会議長、首相に対する非難決議案まで提出されている。CHADAMA議長のボウェは、国会議員の特権である、公用車(トヨタのランクルVXで、一般にはShangingiと呼ばれる)を無駄・贅沢の象徴として返上を発表して、喝采を受けた。CCM側では、2008年スキャンダルで辞任したロワッサ元首相が「政府の指導者の決断力のなさ。財源がないことを理由にする責任回避」を強く批判する議論をした。ともあれ、6月21日、予算案は、賛成234、反対81、棄権・欠席34で通過した。

 ニエレレ率いたCCMの一党独裁時代に比べて、健全な野党が育ってきて好ましいとなるのか、あるいは民衆に受けを狙ったポピュリズムが横行し始めたのか。新聞報道では野党支持が強く、「税金を無駄なこと、指導者の懐を増やすことに使うな」という意見が多い。しかし、私の周りを見わたしても、給与生活者の多いダルエスサラームですら、所得税のような形で直接納税している人はかなり少ないのではないか、いわんや農村部においてをや、と思う。VAT(消費税)のような形で納税しているとはいえ、やはり広範な税収のベースが欠けているように見える。野党が民衆の代弁者であることと、経済自立の政策立案を両立できるのか、日本の政治を省みながら、不安に思う。従来のタンザニアの歴史のように、野党も取り込まれていくのか、これからを見守りたいと思う。

 6月22日、TANESCOから、また計画停電の発表があった。大雨季が終わった直後に、この長期計画停電は異常である。最大の水がめであるムテラダムの水位は、691.08mで、発電停止の最低水位である690mをわずか1.08mしか上回っていないという。本土21州の内、全国配電網につながっている15州の停電計画が発表されている。欧米や南アの会社と火力発電の交渉は続けられており、「8月には何とかなる」というTANESCOのマネージャーとか、「あと2年もすれば、計画停電なんて歴史になるさ」と豪語するエネルギー省の次官の言葉を、新聞で読むと、「あぁ、これも人災なのだ」とつくづく思う。

 タンザニア人のおばさんが「これはTANESCOの責任じゃないわよ。国の責任よ」と言う。日本でも当事者である東電の責任は免れないとしても、原発を推進してきた産業界、経産省の責任はどうなんだろう。それを選択してきた国民総体の責任でもある。首相の首のすげ替えに大騒ぎするよりも、「原発がないと安定した発展・生活が維持できない」と信じ込んできた、その生活を見直すべきなのではないか。無計画な計画停電が日常化してしまい、私が生活を始めた27年前と比べて、状況がさほど改善されているとは思えないタンザニアで暮らしていると、そう感じるのである。

 ☆参考:National Website of the United Republic of Tanzania "Taarifa ya Hali ya Uchumi wa Taifa kwa Mwaka 2010 na Malengo katika Kipindi cha Muda wa Kati (2011/12-2015/16)"

(2011年7月1日)

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