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Habari za Dar es Salaam No.136   "Rasimu ya Katiba Mpya" ― 憲法改正草案 ―

根本 利通(ねもととしみち)

 2013年6月3日、ジョセフ・ワリオバ憲法改正委員会(CRC)委員長から、憲法改正草案(第一次案)が発表された。ワリオバ委員長はニエレレ大統領の下で首相を務めたことがあるが、本来は法律家(判事)である。選挙に弱く政治家としては早くに引退したが、その後清廉さを買われ汚職摘発局などの代表を務めていた。今回も、多くの利権が絡む憲法改正という大事業にかりだされた形だ。CRCは昨年7月に結成され、約10か月ほどタンザニア全土(本土とザンジバル)の県を巡り、地域住民の意見を聴取するという作業(1942回の公聴会に130万人が参加し、39万5千人が意見を発表したとのこと)の末、今回の第一次草案の発表となった。

📷 憲法改正案の発表 『The Citizen』2013年6月4日号  もっとも注目されていたのは、「二つの政府」か「三つの政府」かということである。タンザニア連合共和国はタンガニーカ(1961年独立)とザンジバル(1963年独立)という二つの主権国家が、1964年のザンジバル革命の混乱のなかで連合して出来上がった国だ。その連合の過程では協定がニエレレとカルメという当時のそれぞれの大統領間で秘密裏に行われ、法的な正当性はないという議論もあるがそれは措いておこう。現在はザンジバル自治政府とタンザニア連合政府がある「二つの政府」状態である。それに新たにタンガニーカ政府を作り(復活させるという言い方をする人たちもいる)、「三つの政府」にしようという案が以前からあった。

 「三つの政府」案は連合政府の権限を減らし、タンガニーカ、ザンジバル自治政府の権限を強める。そしてザンジバルに根強い主権国家回復、ひいては連合の解消、再独立への道につながりかねない。1983~4年にこの議論が起こった際には、ニエレレ大統領が健在で、当時のザンジバルのジュンベ大統領は辞任に追い込まれた。また1992年ニャラリ調査団の勧告を受け、翌93年にはタンガニーカ政府設立を求める議員提案に賛成した55人の議員は、すでに引退していたニエレレからの圧力でその提案を断念させられ、マリチェラ首相は辞任を余儀なくされた。当時のタンザニアでは最大のタブーだったといっていい。(「ニエレレとザンジバルとの連合の問題」参照)

 そのタブーがなくなり、大っぴらに議論できるようになったことはいいことなのだろう。1993年、G55グループといわれた人たちも発言する。議員提案の代表を務めたンジェル・カサカ元議員は「当時、タンガニーカ政府を提案するのは勇気が要った。20年経ってタンザニア人の多数に受け入れられたのは嬉しい。国会は通過したのに、1993年末ドドマでのCCMでの会議をニエレレが仕切り、我われは裏切り者と呼ばれ、カワワ(元首相、副大統領)は党員証を返却しろと迫った」と回顧する。マリチェラ首相だけでなく、ホレス・コリンバCCM書記長も辞任を余儀なくされた。マリチェラ元首相は言う。「G55の意見が通っていたら、我われの現在は違っていただろう。しかし過去のことは過去のこと。今は将来を見据え、これがどう実行されるかを見極めないといけない」。当時、連合の問題と並んでタブーであった複数政党制はすでに現実であり、今回の草案では草の根レベルから大統領まで無所属での立候補も認められている。

 一方で、1984年当時ニエレレの意向を受けた形で活躍し、ザンジバル政府の首相に若くしてなったセイフ・ハマドはどう語っているか。ハマドはその後CCMを追放され、投獄された後、CUFという強力な野党を立ち上げ、ザンジバル大統領選挙に4度立候補して僅差で敗れ、現在はザンジバル自治政府の第一副大統領である、次回(2015年)の総選挙にも立候補の野心を隠していない。今回の改正草案に関しハマドは「不十分。防衛・治安、通貨・中央銀行、外交、政党という重要な項目に変更がない。ザンジバル人は完全な自治を要求している」と言う。さてこれらの項目を自治政府に移管したら、連合政府に主権は何が残されるのだろうかと疑ってしまう。

📷 G55グループのリーダーたち 『The Citizen』2013年6月9日号  改正草案の発表を聴いたザンジバル市民の反応はいかに?新聞報道によれば、ハマドの言うように不満を表明する人が多いようだ。いはく「全く期待外れ」「本土人の利益ばかり」「完全なる自治を」などなど。つまり、連合共和国になってザンジバルは主権を奪われて、いいことはなかったという底流が強い。しかしこれは本土の人からは反発を食らうだろう。タンガニーカと違ってザンジバル自治政府はあり、連合政府の議会にも人口比は33:1(2012年国勢調査)であるにもかかわらず、239議席中50議席を与えられているという優遇で、本土人は十分譲歩しているという感覚がある。

 有力野党であるCHADEMAとCUFは基本的に「三つの政府」案は受け入れているように見える。CUFは当初ザンジバル政府とタンガニーカ政府による連合協定による政府を主張していたが、さすがに現在タンガニーカ政府は存在していないので現実的ではなく、それには固執していないようだ。

 与党であるCCM内は割れているようだが、反対論が多数派のようだ。それは50年間、体制与党であったのだから当然といえば当然だが、その根拠は何か?まずは現状維持ということだろう、「三つの政府」でもましてや「一つの政府」でもなく。三つの政府になると費用がかさむことは目に見えるし、権限、国家の資産の分配を巡っての綱引きが激しくなり、連合が揺らぐという意見だ。

 現在進行中の東アフリカ共同体(EAC)の統合という観点から考えるとどうなるか?EACの政治・経済統合が達成される時には、タンザニア連合政府は解消され、タンガニーカ、ザンジバルという二つの国家として加盟することになるだろう。従って新しい連合政府議会の定数75のうち、50が本土、20がザンジバルに割り当てられるという草案にもザンジバル側は不満を表明している。「EACに加盟する場合は、国の大小は関係なく対等のパートナーだ」と。

 連合政府の管轄事項が22あったのが、7つに減らされた。残った7つというのは、①憲法および連合政府の立法、②防衛および治安、③国籍(市民権)と入国管理、④通貨と中央銀行、⑤外交、⑥政党の登録、⑦関税および連合政府の非税収入となっている。それではなくなった、つまり各自治政府に移管される項目とはどんなものなのか?警察、危険な状況に対する責任、海外からの借款・貿易、公務員、所得税、港湾・空港・郵便・電話、工場の認可、高等教育、石油・石油製品・天然ガス、国家試験、航空運輸、天気予報、調査、統計、控訴裁判所というのが以前はあり、今回なくなったものと思われる。

 もし三つの政府が海外からの借款をそれぞれ独自にできるのだとしたら、国の債務はとめどもなく膨れ上がらないだろうかと心配する議論はある。そう言われると商業国家を目指すであろうザンジバルは大丈夫かなと思ったりもする。また二つの政府のことしか知らない身としては、三つの政府になると連合政府とタンガニーカ政府の大臣、議員、公務員の数が膨れ上がり、無駄な支出が増加するだろうと思ってしまう。公務員の兼任禁止の規定もこの草案に入っているから、連合政府とタンガニーカ政府の公務員兼任が出来ないのだったら、ポストは増えるだろう。

📷 どっちの大統領を狙う? 『Mwananchi』2013年6月6日号  「一つの国に3人の大統領なんて聞いたこともない」とうそぶく古参大臣もいるが、同感である。それなら「一つの政府」か、それが嫌なら完全分離かとなりそうで、大声では言えない。しかし、連合政府の大統領の権限が縮小されるから、実質的にタンガニーカ政府の大統領の実権の方が大きくなるかもも知れない。「どっちの大統領を狙う?」というのは権力者の発想だろうが、連合政府の大統領が飾りのような名誉職にならないとも限らない。

 ダルエスサラーム大学法学部の名誉教授で、ニエレレのブレーンとして活躍したイッサ・シヴジ教授は「三つの政府」についてダルエスサラーム大学での講演でこう述べた。「この草案はいくつかのグループの駆け引きの妥協の産物で合意ではない。したがって第二段階でまた変わるだろう。連合の際に「二つの政府」とする法的な証拠書類があるので、「三つの政府」をうんぬんするのはおかしい。連合政府の憲法とほかの二つの政府の憲法との上下関係が不明確で、権利の解釈が衝突する可能性が高い」(6月21日)。

 また、かつてのニャラリ調査団のメンバーで、前東アフリカ共同体事務局長であったジュマ・ムワパチュは次のように述べた。「私は1992年1月ニャラリ調査団20人のうちの5人が、引退してブティアマ村にいたニエレレに調査団の最終提案、つまり三つの政府=連邦政府案を説明に行く一人に選ばれた。ニエレレはそれを連合を解体するレシピだと拒否した。なぜならタンガニーカ政府の権力が名目的な連合政府より強くなるからだと。現在の連合が抱えている問題、特にザンジバル政府大統領が主権国家の元首としての待遇がないこと、外国やアフリカ開発銀行から借款を受けられないことなどに対するザンジバル人の不満は理解できる。しかし三つの政府を作らなくても、現在の二つの政府の枠組みのなかで解決できる問題だというシヴジの意見に同意する」(7月21日)。

 ワリオバ委員長は、CCMやシヴジ教授などからの「三つの政府」に対する批判に対して、こう反論している。「三つの政府」は長年検討されてきた課題である。ザンジバルは国歌も国旗も憲法も持ち、イスラーム協力機構(OIC)にも加盟しようとする動きがある。タンガニーカの人たちは「自分たちのはどこにある?」と問うだろう。「三つの政府」つまり連邦政府の設立が、連合を救う唯一の方法だ。ワリオバ委員長は新憲法の制定過程での政党の介入、特にCCMによる自己の憲法私案作成を強く牽制した(7月5日)。

 政権与党であるCCMからの正式な指針(Mwongozo)は、7月19日に発表された。これはすでに6月10日のCCMの中央委員会で決定されていたことが文書で配布されたということらしい。各章に関して意見が述べられているが、重要なのは「三つの政府」についてである。これは党の政策に反すると明記している。1964年の連合協定の法的正当性を主張している。三つの政府が導入されると官僚主義と法的な複雑さが増すとしている。いわく連合政府の議員は州レベルでの選出となるのに、県のレベルでの教育・保健・農業・水・道路などの国民の要求に応じられないとする。またタンザニア本土の経済が断然大きいので、連合政府やザンジバル政府の財政とのギャップが出てくるだろうということも挙げられていた。

📷 大統領3人? 『Mwananchi』2013年6月14日号  「三つの政府」以外の主な変更点を見てみよう。憲法改正草案全16章240条は当然のことながらスワヒリ語で公表されていて、日本語ですら法律の素養のない私のことであるから、誤解があるかもしれない。また現行の1977年憲法の全文は入手していないので、正確な比較はできていない。

 大統領は40歳以上(変更なし)、大学卒以上という資格になった。権限は制限され、首相、大臣、司法長官、最高裁長官などの指名も議会の同意が必要になる。首相は国会の多数派から指名するということであるから、大統領と首相は党派が違うこともありうるということになる。学歴制限も差別禁止とは衝突するような感じもある。

 国会の議長、副議長は党籍を離脱するどころか、国会議員から選出されないとされる。40歳以上、大卒という条件だ。国会議長にはだいたいベテランの大臣を何回も経験した議員が立候補するのが普通だった(副議長はその予備軍)。また大臣も15人に制限され、国会議員から選ばれないとされている。議長や大臣になるために国会選挙に立候補しないで待っていたら、与野党逆転して無職になる大物が出てくるのか。日本や英国のような議院内閣制の感覚とは違ってくるのだろうか。

 連合政府議会は、35選挙区で男女1名ずつを選出し、それ以外に大統領指名議員の5人を合わせ合計75人。本土は50人、ザンジバルは20人を選出する。本土には現在25州、ザンジバルには5州あるから、それが選挙区になると想像される。各選挙区男女1名ずつとなれば、現在のように女性のための指名議員というのは要らなくなるだろう。大統領指名の5人というのは身体障害者のために留保してあるという新聞報道があったが、憲法草案には明記されていないようだ。あるいは大物救済に使われるのか。

 自由と人権の問題は、第4章「人権、市民と国家の責任」の第1部「人権」の第22条から第47条まで細かく規定されている。第22条は「人間は生まれながらにして自由で平等である」から始まる。その後、差別の禁止、奴隷とされない権利、プライバシー・移動・表現・言論・宗教・集会・結社の自由が保証されている。さらに、労働・財産・市民・身体・環境・教育・子ども・若者・身体障害者・少数者・女性・老人の権利が挙げられている。

 第45条は社会のおける少数者の権利についてである。代表を送り、教育・経済活動・雇用の機会を与えられ、伝統的な土地を保持し生計を維持する権利があり、政府当局はそれを保証する責任があるとしている。これは特に狩猟採集民の権利のことだという報道があった。つまり、ハッザとかドロボと呼ばれる狩猟採集民が、タンザニアの法律上初めてその存在を認められ、権利を保証されたのだという解説であった。少数民族の伝統的文化、その政治的権利を憲法で保証することが実際の社会のなかでどれだけ有効かはわからないが、これはややもすると農耕民の論理の優先する土地争奪に関しても、遊牧民の権利を主張できる根拠となるのかもしれない。

📷 憲法改正草案  現行の憲法には「タンザニアはウジャマーと自力発展(Self Reliance)の政策に従う社会主義国家である」という前文がある。今回の草案ではその社会主義という言葉は消えた。ニエレレ時代を知る人間としては感慨深いものがある。露骨に「資本主義国家」と明記しろと主張している人間もいるようだ。

 今回の草案で触れられていない大きな問題は、土地問題だろう。タンザニアは慣習法が優先で、土地の所有権が確立していない。また社会主義の影響で、土地はすべて国家のもので、現実には保有権の売買が行なわれている。昨今の国内および海外からの投資家により大土地の囲い込み、所有権の要求といういわゆる「土地収奪」問題が顕在化しつつある。その土地問題に対応するのはどの政府なのか?本土とザンジバル政府で、それぞれ対応が異なり、混乱が起こる可能性は高い。

 二重国籍(市民権)を認めるかどうかという議論も未決着だ。タンザニアは二重国籍を現在認めていない。欧米に移住し、その国の市民権を持っているタンザニア人は多い。またその国で生まれた子どもたちはその国の国籍を保持しているのだろう。タンザニアは頭脳の海外流出は、ほかのアフリカ諸国、たとえばガーナなどと比較して大きな問題となっているとは思えないが、それでも海外に移住していった人たちは多い。その人たちが外国の市民権を保持しながら、タンザニアに投資するだけでなく、政治にも参画したいということなのだ。今回の草案には触れられていない。

 今後の日程であるが、7月から9月にかけてCRCは再度全国を巡回する公聴会を開催して批判・意見を集約し、必要な草案の修正を行う。その第二次案が11月に開かれる憲法改正のための特別国会で議論・修正され、最終案(?)となる。それが2014年3月に国民投票にかけられ、4月26日の連合記念日に発布されることになっている。ザンジバル自治政府の憲法は既に存在しており、必要な修正が施されるのだろう。いまだ存在しないタンガニーカ自治政府の憲法はいつごろ起草され、ザンジバル憲法、連合憲法との整合性をどうつけていくのだろうか。2014年4月に連合憲法が発布されれば、その後ただちにタンガニーカ憲法の起草に入り、2014年12月には完成・発布され、2015年10月の総選挙には間に合うというのが、CRCが描いているロードマップのようだ。

 しかし憲法草案の発表の直後から、タンガニーカ憲法の作成は間に合わないから、それまで現政権が1年か2年任期を延長しないといけないのではないかという、ブラックジョークのような報道もあった。そして7月20日CCMの指針が公表されてから、司法大臣が「タンザニア本土の憲法が間に合わない場合は」と話して物議をかもした。CHADEMAなどは連合政府憲法の完成を待たずに、タンザニア本土の憲法草案の作成を始めたらいいとしている。

 7月12日ラマダンの3日目、本土とザンジバルで憲法草案の公聴会が始まった。9月2日までCRCは14チームに分かれて、各地で177回(本土164回、ザンジバル13回)の公聴会が開かれ、老若男女知識人庶民の国民が意見を述べている。CCMの指針に沿った意見を述べて、「CCMの方針は知っている。あるならもっと別のあなたの意見を述べてくれ」とCRCの委員の遮られ、憤然としている参加者もいたようだ。

☆参照文献☆『The Citizen』2013年6月4日、7日、9日、7月6日、13日、15日、22日、24日号 ・『Mwananchi』2013年6月4~7日、14日、22日、7月6日、20~22日、24~26日号 ・『Daily News』2013年6月4日、14、15日号 ・『The East African』2013年6月8日-14日号 ・Issa G. Shivji『Pan-Africanism or Pragmatizm?― Lessons of Tanganyika-Zanzibar Union』(Mkuki na Nyota Publishers,2008) ・『Rasimu ya Katiba ya Jamuhuri ya Muungano wa Tanzania』

(2013年8月1日)

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