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Habari za Dar es Salaam No.157   "Kura ya Maoni ya Katiba yameahirishwa" ― 憲法改正国民投票 延期―

根本 利通(ねもととしみち)

 4月30日に予定されていた憲法改正案の国民投票が無期限延期になった。予想されていたこととはいうものの、この混乱の過程を簡単に振り返ってみたい。主に『Mwananchi』紙、『The Citizen』紙の報道に依っている。

📷 憲法シンポジウムから退出するワリオバ 『Mwananchi』2014年11月3日号  今回、国民投票に付されるはずだった憲法改正案の制定過程については、「新憲法の混乱」を参照していただきたい。簡単にいえば、ワリオバ元首相を委員長とする憲法改正委員会(CRC)が、全国を巡回して国民の意見を聴取しながら作った草案を、再度全国を巡回して公聴会を開くという丁寧な作業で1年半かけた第二次改正案ができあがったのが2013年12月である。それを、昨年2月から制憲議会で多くの野党の反対・ボイコットを押し切って、与党CCM(きわめて少数の野党・無所属議員を巻き込んだから単独ではない)が再改正し、現在の憲法とほとんど変わらない改正案にしてしまった。

 制憲議会によるその憲法改正案が、大統領、ザンジバル大統領に贈呈されたのが、昨年の10月8日である。そしてそれを国民投票に付すことは決まっていたが、その日程が2015年10月の総選挙の前か、後になるかが焦点となった。当初、というのはCRCが憲法改正案論議を始めた時には、国民投票は2016年、つまりキクウェテ大統領の後継大統領が選ばれた後というのが有力だった。しかし、総選挙前に国民投票を行い、自らの実績として引退の花道にしたい現大統領の意向で、2015年3月30日案が出された。しかし、それには国家選挙委員会(NEC)が、選挙人名簿登録が間に合わないと反対した。

 11月2日ダルエスサラームで開かれたニエレレ財団主催の憲法シンポジウムにおいて、ワリオバCRC元委員長が講演をした際に、一団の若者たちがプラカードを掲げ「CCM!CCM!」と大声をあげ、会場が混乱し、ワリオバは私服警官に護られて退場し、シンポジウムが未了に終わった事件があった。これはCCMの青年部の幹部が雇った若者たちの仕業であることが発覚した。それに対し、大統領は「自分には起こらないでほしい」とコメントしたと報道され、強い批判を浴びた。11月4日、大統領は国民投票の日付を4月30日と発表した。

📷 国民投票ボイコットを声明したUKAWA 『The Citizen』2015年1月24日号

 11月の国会で炸裂したタンザニア電力公社(TANESCO)をめぐる「エスクロウ・スキャンダル」事件(「エスクロウ・スキャンダル」参照)で、政権与党の腐敗への批判が高まり、12月14日に行なわれた地方選挙でも、与党CCMは後退を余儀なくされた(「総選挙の年が明けた」参照)。その流れのなかで、憲法改正の国民投票を早期に実施することに対する批判も高まってきた。ワリオバは政府の改正案に否決の運動を起こすことを表明した。

 年が明けた1月23日、主要野党の連合であるUKAWA(国民憲法同盟)は、国民投票のボイコットを声明した。「国民の合意が得られていない」ということである。その背景には、憲法改正案制定過程に関する、ワリオバなどの元CRC委員や知識人、人権NGOなどからの批判のほかに、選挙人登録の遅れがあった。選挙人登録は、5年毎の総選挙ごとに行なわれてきたが、今回は機械化され、BVRと呼ばれる個体識別選挙人登録機が導入されることになっている。しかし、1月中旬のNECの発表によれば、2,400万人という選挙人登録のためには7,750のBVRが必要とされるが、現在250しか購入していないという。そのために選挙準備が物理的に間に合わないだろうと言う。BVR購入の遅れは、政府予算の不足による。政府は総選挙準備のために、NECに7,700万ドル割り当ててあったが、9月末の段階で1,200万ドルしか支出していないという。これにはおそらくエスクロウ・スキャンダルによるドナー諸国の「予算支援」の停止が影響している。

 素人考えでは、制憲議会の強引な運営、エスクロウ・スキャンダルで長年の与党体制の汚職体質への批判が高まっているおりから、UKAWAも国民投票に参加し、粛々と否決すればいいと思う。特に、本土とザンジバルの双方で賛成票が過半数を占めないといけないのだから、「二つの政府」という現状維持案を採った今回の改正案は、ザンジバルでは否決されるのではないかという憶測がある。ただ、そこには選挙人登録が公正に行われればという前提があり、BVR購入の遅れが不信を高めていたのだと思う。UKAWAの建前としては、「制憲議会の論議過程に抗議してボイコットしたのだから、その結果生まれた改正案の国民投票に参加するのは筋が通らない」ということなのだ。

📷 BVRで選挙人登録テスト中 『Mwananchi』2015年2月4日号  2月に入っても、政府は予定通りの4月30日実施を主張していた。しかし国会の論議で、今回の改正案の一つである民法事案に関するイスラームのカディー法廷の導入に関して、クリスチャンからの批判とムスリムの要望との折り合いがつかずに宙に浮いた状態が続いた。2月下旬になってもNECは、BVRは3月第2週に2,100個追加になる予定と発表していた。NECからは4月30日の国民投票に悲観的な声が漏れだした。

 2月23日から南部のンジョンベ州で選挙人登録が始まり、3月25日に終了予定だった。その当時NECが保有していた250個のBVRがンジョンベに運ばれた。実際にンジョンベ州で登録作業が始まり、1個のBVRで1日平均80人の登録が可能と言われていたが、3月初めには終了予定が4月12日に変更になった。また追加になるはずの2,100個が3月中旬になっても届かず、NECメンバーが購入元の南アに飛んだりした。NECはBVRの借用をケニアとナイジェリアに依頼したが断られたという報道もあった。ピンダ首相は3月24日、購入代金の70%(5,880万ドル)はもう支払ったと言明したが、現実的にもし7,750個のBVRが明日揃ったとしても、4月30日の投票までに全国での選挙人登録は物理的に無理な状態となった。法務長官は既にその前に投票日の変更の可能性を示唆していたという。

 4月2日の『The Citizen』紙に国民投票に関する世論調査の結果が載った。TwawezaというNGOが1月17日~2月17日に1,399人の本土の人間に対してインタビューした結果だという。それによると改正憲法案への賛成が52%、反対が26%、未定が22%であった。賛成は昨年の65%より落ちているが、それでも反対の倍ある。また、UKAWAの投票ボイコットを批判するのは65%に達していたという。10月の総選挙は新憲法下で行なわれると思うものは47%、現憲法下で行われると思うものは30%と割れていた。

📷 選挙人登録が間に合うだろうか? 『Mwananchi』2015年3月25日号

 ワリオバCRCによる第二次改正案と制憲議会による改正案との比較では、支持は前者41%、後者39%という結果で、賛成の52%という数字と矛盾するように思えて不思議だった。また賛成すると言いながら、国会議員のリコール制度、公開・透明・責任体制、任期制限などを盛り込んだワリオバCRC案から、提案された改正案ではそれらの条項が削除されたことに対する批判は70~80%にも上った。また「二つの政府」支持も60%ということだが、今回は行なわれなかったザンジバル側では前回は「三つの政府」支持が80%であったという。このザンジバルにおける「三つの政府」支持はかなり根強いと思われる。4月に入り、ザンジバル革命当時のASP(アフロシラジ党)幹部であり、最初の革命政府で大臣を務め、その後もザンジバル自治政府と連合政府で大臣を歴任した、CCMの党員番号7番という超古参幹部であるハッサン・ナソロ・モヨが党員権をはく奪された。これはモヨが「三つの政府」を公然と、くりかえし訴えていたためという。

 その同じ4月2日の新聞に、国民投票の延期の速報が入った。4月1日の国会で、ピンダ首相が野党議員の追及を受け、「4月30日の国民投票実施は非現実的だ」と認めたということらしい。そして、翌3日の新聞には「空しい約束のあげくに国民投票延期」という見出しが躍った。ちょうどケニアのガリッサ大学襲撃事件も4月2日だったから、どっちがトップ記事か微妙な感じだったが。NEC議長が会見し、投票期日の延期を表明したが、いつになるかは明言しなかった。情報筋では8月、あるいは10月の総選挙と同時案もあるという。この段階でもNECが保有するBVRは250個で増加なく、ンジョンベでの登録作業も終わっていなかった。

 ンジョンベ州でのみ先行して行なわれた選挙人名簿登録の結果が報道されたのは4月21日である。それによれば登録されたのは、300,800人ということだ。予想された登録選挙人数が、392,638人となっていたから、77%程度と少ない。登録漏れの地区がいくつかあると伝えられてる。このンジョンベ州での登録作業をいつ終えたかという日付がはっきりしないが、46日間の作業という数字が正しければ4月9日に終了したのだろうか。250個のBVRがフル稼働してこの数字だったら、1個当たり1日平均26人しか登録できていないことになる。

 NECは4月中旬までに1,848個のBVRを入手し、イリンガ、リンディ、ルヴマ、ムトワラ州での登録作業を4月24日から開始するとしている。実際に開始されたという報道はまだない。さらに1,600個のBVRが4月中に到着し、それを5月2日からのドドマ、ムベヤ、カタヴィ、ルクワ州での登録に投入すると言っている。その後、1,152個のBVRで、シンギダ、タボラ、キゴマ、カゲラ州での登録を始めると言っている。10月の総選挙(通常であれば最終日曜日なので10月25日のはずだが、NECはまだ発表していない)にはまったく問題ないとしている。

📷 国民投票と総選挙を一緒にやる夢 『Mwananchi』2014年4月15日号

   このNECの選挙人登録日程案に野党CHADEMA(民主開発党)書記長であり、前回の大統領選挙での次点であったスラーがかみついた。NECの選挙人登録の州はまずCCMの地盤から始まっている。野党の地盤であるムワンザ、アルーシャ、キリマンジャロ、ダルエスサラームなどの州は予定も上がっていない。これは野党の地盤の選挙人登録者数を時間切れで大幅に減らそうという意図的な戦略であるという。2015/6年度予算で、十分な財源を付けないと選挙人登録は終わらないと、大統領に注文を付けている。

 これは大統領指名のNECのメンバーに対する強い不信がある。UKAWAは国民投票実施は総選挙後の来年を主張している。そして選挙に関わる事項を総選挙前に一部訂正という意向らしい。そのなかで、政府から独立したメンバーによる中立のNECという要求がある。一方のザンジバルの選挙を取り仕切るのはZEC(ザンジバル選挙委員会)だが、これも政権与党の御用団体といわれている。ザンジバルでの選挙人登録の予備登録に当たるザンジバルの国民登録証(IDカード)でも、1万人以上の漏れがあるといわれる。ZECは3月には「ザンジバルの選挙人登録は2日間で十分だ」と豪語していたが。

 どうも憲法の内容よりも、予算不足によるBVR購入の遅れ、係員の不慣れによる登録作業の遅れ、それに伴う総選挙への影響など、物理的、技術的な問題に話題が移り、政治戦略の翻弄されているきらいがあるようだ。ワリオバCRC憲法改正案に盛り込まれていた人権保護規定、国会議員の権力の規制・監視や連合政府の権限などの問題は一般国民に浸透しているとは思われない状況で、総選挙に向かっている。その総選挙で勝ちぬきそうな大統領候補がまだ見えてこない現状では、新憲法は新大統領次第ということになりそうな形勢である。

☆参照新聞☆  ・『The Citizen』2014年10月9~13、15、23、25、26日、11月3~6日、12月21、31日号   2015年1月4、24、26日、2月4、6、8、11、21日、3月13、14、17、22、24、25、30日号   4月2~4、8、13、15、18、20、21日号  ・『Mwananchi』2014年10月9、10、12~17、20、21、23、25~27日、11月3~7、10日、12月21日号   2015年1月11、18、21、24、25日、2月3、4、6~9、12日、3月7、9、13、14、17、18、25日号   4月2、3、5、7、12、13,15、18、24日号  ・『The Daily News』2015年4月3日号  ・『The East African』2015年1月17~23日号

(2015年5月1日)

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