• 白川

Habari za Dar es Salaam No.81   "Foreign Jounalists" ― 辛口のジャーナリズム ―

根本 利通(ねもととしみち)

 2009年、明けましておめでとうございます。本年が皆様にとって、タンザニアにとって、アフリカにとって、世界にとって平和であるように祈念いたします。

📷  昨年、2008年は日本にとってはTICAD年でアフリカへの取り組みが見られ、外務省、JICAなど公的機関だけではなく、民間のテレビなどでもアフリカが取り上げられることが多かった。所詮一時的なことでも、注目されるのはいいことだし、その中の一部でも関心が継続すれば、長い流れの中では意味があるだろう。昨年の日本のスローガンは「元気なアフリカ」だったが、果たしてそういう日本が元気なのか?という突っ込みは措くとして、アフリカは元気なのだろうかということを、少し考えてみたい。

 今回その参考資料として取り上げるのは、松本仁一『アフリカ・レポートー壊れる国、生きる人々』(岩波新書、2008年)とRobert Guest『The Shackled Continent:Africa's past, Present and Future』(2004年)の邦訳『アフリカー苦悩する大陸』(伊藤真訳、東洋経済新報社、2008年) である。松本は朝日新聞でナイロビ特派員、カイロ特派員(中東アフリカ総局長)を歴任し、長年アフリカを観てきた人。アフリカ関係の著者は『空はアフリカ色』『アフリカを食べる』など多数。ゲストはおそらくイギリス人。「エコノミスト」の元東京特派員で、その後元ヨハネスブルグ特派員。ともにジャーナリストである。

 松本の本に主として取り上げられているのは、ジンバブウェ、南ア、アンゴラ、スーダン、パリ、歌舞伎町、ケニア、ウガンダ、セネガル。ゲストの本では、ジンバブウェ、コンゴ、アンゴラ、ルワンダ、ナイジェリア、南ア、ソマリア、タンザニアなど。 取り上げられているテーマは、独裁国家、地下資源、エイズ、部族主義、援助、中国人、海外出稼ぎ・移住など。

  どちらの本でもジャーナリストによるものであるから、「幸せなアフリカ」とか「輝く未来を持つアフリカ」は描かれない。苦悩するアフリカの現在を抉り出そうとしている。それは日刊紙であれ週刊誌であれ、ジャーナリズムの避けられない宿命なのだろう。内戦、紛争、貧困、飢餓といったものを本社のデスクが期待していれば、「幸せなアフリカ」の原稿を送ってもボツになるのだろう。。そして深刻なアフリカを描く場合、避けられないのがジンバブウェの問題。どちらも第1章に持ってきていて、それぞれ「国を壊したのは誰か」「吸血国家」と題している。

 ロバート・ムガベのジンバブウェにおける独裁は、ここ10年ほど常にアフリカ報道の中で話題となる続けてきた。ジンバブウェ解放戦争の英雄が、いかに腐敗、転落し、国を破壊したか。元解放戦争のゲリラ兵士への人気取りの年金支給、白人農場の占拠に始まり、国の基幹だった商業的農業が崩れ去り、農産物は輸出国から輸入国に転落した。経済の不振とともに、ジンバブウェ・ドル(通貨)は急激に価値を失い、めちゃくちゃなインフレとなる。2008年2月段階で16万%という。そういう経済崩壊の中で、医師とか技術者は職を得られる外国に流出して行く。タンザニアにも多くのジンバブウェ白人が中間管理職として働いている。当然、その独裁に対して国民は批判の声を上げ、2000年、2004年、2008年と総選挙でムガベと政権与党ZAPU-PFに、野党MDCのツァンギライ候補は挑戦した。そして暴力的な選挙戦の中、AUなどが送った国際選挙監視団はまともに機能せず、2008年6月、ムガベは「三度」勝利した。その後、ケニア型の権力共有の話し合いが進んでいるが、ムガベ側は軍、警察、財務、外交などの主要ポストを手放す準備はない。

 ムガベのような独裁者は、実はアフリカ諸国のほかの元首たちにも多く存在し、AU首脳会議でも表立ってムガベを非難できないでいる現状がアフリカ大陸の現在を象徴している。過去を見れば、バンダ(マラウィ)、モブツ(ザイール)、モイ(ケニア)などをはじめに、枚挙に暇がない。現在の元首の中にもいるようだ。例えばツァンギライがムガベに代わって政権を握ったとしよう。現政権の腐敗、経済混乱に国民の不満は高まっているから喝采を浴びるだろう。しかし、その後経済、国家を建て直していく運営能力がMDC陣営にあるか、人材が揃っているかは未知数である。つまりエリートたちの数が限られている以上、結局反対陣営による利権の分配に終わってしまうのではないかという不安。それはカウンダを「民主的な」選挙でチルバが追い落としたザンビアの経験でもある。

 国が崩壊しつつあるジンバブウェの民衆が逃げて行く先は隣の南アである。最後まで白人人種主義政権の牙城であった南ア。ネルソン・マンデラが大統領になった1994年から、「寛容と和解」をスローガンに「虹の国」造りを目指している南アはうまくいっているのか? 確かに南アはタンザニアから見ていると地域大国である。航空会社、ビール、電力など公共的な企業にも南ア資本が入り、またホテルなど観光業にも南ア人の進出が目立つ。しかし、ヨハネスブルグが危険な町になって久しいし、2010年の南アワールドカップの際に、観客は襲われずにスタジアムにたどり着けるかと真剣に心配する。「いやぁ、国の威信にかけて警官を動員するから、ワールドカップの観客は大丈夫。かえって手薄になるそれ以外の地区でやり放題になるだろうな」という暗い予測。南アにいるヨーロッパ人、日本人は要塞のような家に住み、それでもなおかつ襲われているという。強姦や汚職事件で被告であったズマが、大衆人気をバックにムベキを倒して大統領候補になり、その結果ANCでは分裂騒ぎが起きている。輝かしい解放勢力としての歴史ををもつANCも権力を握ると腐敗を免れないのだ。

📷 ゲストの本では第2章でコンゴ、アンゴラでの資源争奪に伴う内戦、第3章ではマラウィのスラム街の例をあげ、担保にならない不動産を「眠れる資産」と称し、資本主義発展の道を探る。第4章では、ナイジェリア、ウガンダ、ジンバブウェ、ザンビア、南アなどで主に出稼ぎ労働者、長距離トラック運転手により拡大するエイズ汚染の実態に触れる。

 第5章ではこれも常にあがるルワンダの「部族主義」によってもたらされたジェノサイド、ナイジェリアの石油利権を巡る「部族対立」とそのイギリス植民地主義のよる歴史的背景。さらに南アの人種間の格差に対するアファーマティヴ・アクションに触れる。内容については深入りしないが、訳語の「民族」「部族」の混在が気になる。これは原著が「Ethnic group」と「Tribe」とを使い分けているのだろうか?文の流れからいって、この著者はさほど気を使う人間ではないように感じられるから訳者の判断だろうか?タンザニアに住んでいると「部族対立」という感覚は非常に遠いし、マサイ族と敢えて呼ぶ人(特にマスコミ)に違和感を感じる。「部族」という言葉を東洋史学の流れの中で、あるいはアフリカの過去を学ぶ学問としての文化人類学の範疇の中で使うのならともかく、現代アフリカの政治の問題を語るジャーナリストの使う用語としては不適切であると感じる。実態とかけ離れていると思うのだ。ただそれはタンザニアが特殊なのであって、それはニエレレの偉大な成果の一つなのか?この著者は「ニエレレ大統領が部族主義を押さえ込めた理由は、当時の政権が徹底的に非民主的だったからだ」と言い放つ。また、マンデラが大逆裁判で述べた理想にも、ひややかな視線を投げかける。

 第6章はエコノミストである著者の面目躍如となっている。ソマリア、ザンビア、ボツワナなどの例を挙げ、援助よりも自由貿易をという。援助がなかなか一般の民衆にいきわたらない、成功しないのは、被援助国が賢明な経済政策を執行しないからであり、そういうダメな人には金を渡すよりものの考え方を助言する方がいいとする。ウガンダからヨーロッパへの花の輸出を、あのボノ(アイルランドのロック歌手)に「グローバリゼーションの最も優れた一面」と言わせている。ボノは今年朝日新聞の「アフリカ特集」の1日編集委員だったことを思い出す。

 第7章のカメルーンで、ギネス社のビール輸送トラックの同行記はリアル感あふれ、面白い。劣悪なインフラ(道路など)、当局の妨害(盗人警官など)などが多国籍企業のアフリカへの投資意欲を阻んでいるとして、「搾取されるより辛いのは、搾取すらすらされないという事実」と、反グローバリズム運動を皮肉る。タンザニアの現在の低い生産性、ころころ変わる税制、恣意的な国税当局の対応、汚職を見ていると、まともな日本企業が投資するのは難しいだろうなと実感するが、果たして多国籍企業がバンバン進出できるような環境になるのがいいことなのか。

 第8章はハイテク技術は「貧困」を救えるか?と題し、ザンビアがアメリカの遺伝子組み換え食品の援助を断った事実を皮肉る。その中で「アメリカは、国民の健康志向がつとに有名で、食品の安全にはうるさい連中は数知れず、‥そんなアメリカ人が7年も消費し続けて問題がなかったのだ」と書いているが、私たちの経験とはかけ離れた感覚である。チェルノブイリの汚染食品を、自国民には出さず、アフリカには販売したり、「援助」した国もあったはずだ。

📷   辛口の文章でアフリカを描き出した二つの本だが、「アフリカの民衆に向ける目は優しい」と評価される。松本の本に対するそういう書評も目にした。松本はこのゲストの本を書評で高く評価している。果たしてそうだろうか?松本の本ではその副題にあるように「生きる人々」を描こうとする。ジンバブウェの農村の自立を目指すNGOのORAPの活動、南アのソウェトのレストラン、NGO、アレクサンドラのツアー会社、シエラレオネのバイクタクシー、ソマリランドピースメーカーたちの例を紹介している。さらに萌芽ではなく、具体的に成功しつつある例として、ケニアのマカデミアナッツ社、ウガンダのフェニックス社、セネガルの生カキ屋台の例を挙げる。全て日本人が絡んで大きくなった事業だ。松本は国家に頼らずに、人々が自分で生きて行こうとする姿に期待している。

 ゲストも第9章「南アフリカは希望の星になれるか?」と「一歩ずつ確実にー豊かな未来に向けて」と題する最終章で、著者なりの処方箋を描こうとしている。タンザニアのモロゴロ州とコースト州での、マラリア対策の例を挙げ、「素朴なアイデアでも、きっちり実行すれば劇的な効果をあげることができる」とする。ただ、それ以外は積極的な例があがらず、否定的な高級官僚、ジャーナリストたちの例に舞い戻り、「アフリカほど知識人たちが過去にばかりとらわれている地域は珍しい」とお説教になってしまっている。 

 ゲストのような主張は、ムガベに言わせれば「レイシスト=人種差別主義者」と切って捨てられるだろう。アフリカの負の遺産は、ヨーロッパ人による奴隷貿易とその後の植民地支配によってもたらされたという、歴史的に根拠のある主張である。「部族主義」もイギリスやベルギーなどの植民地主義に依って作り出されてきたものだ。だからといって、ムガベのような悪行を欧米の責任に出来ないし、そんなことでは現実の問題は解決しないことはアフリカの民衆にはもう分かっているのだ。

 「人種主義者」であるか否かは別として、ゲストはあまりにもノーテンキではないかと思う。過去の歴史を勉強してこなかったブッシュ・ジュニアのように。彼の本の中ではびっくりするような文章が頻出する。「毛沢東と異なり、ニエレレは農民に銃を向けて力ずくで集団農場に縛りつけておくような覚悟がなかったから‥」(P.37)「アメリカがイラクに大量の援助を注いでいるのはなぜか?イラクを占領したからには国家を再建するという道義的責任があるとアメリカは感じているし、民主国家として機能してもらうことが大きくアメリカを利するからだ」(P.171)「しかしこれまでのところ、遺伝子組み換え作物が人間や環境に被害を及ぼすという証拠はほとんど(あるいはまったく)ない」(P.232)「裕福な国々は慈善事業として援助を提供しているのであって‥」(P.307)「21世紀初頭、ヨーロッパとその兄弟国たちー特にアメリカーは平和で繁栄を謳歌している」(P.317)「日本人は西洋に追いつくまで1世紀も苦労を重ねた‥」(P.319)などなど‥。西洋キリスト教世界の歴史が単純な一本線の世界史の流れだと思っているわけではないよね?と訊いてみたくなる、単純さである。訳者の「あとがき」にあるように「経済の自由化こそがアフリカ繁栄への道だというスタンスを取り、その主張は明快だ」ということなのだ。

 部外者として、第三者として、客観的な冷静な分析をすることは重要だ。当事者には見えない示唆がたくさんあるだろう。ゲストのような主張を、その当事者の国の中ですれば、命の危険があるかもしれない。取材中、殴られたり、留置所にぶちこまれたジャーナリストはいる。今はその国に住んでいないから、安全圏にいるから書けるとも言える。つまりゲスト自身が認めているように「アウトサイダー=外国人ジャーナリスト」なのだ。もし、ジンバブウェ人、南ア人のジャーナリストであれば、命の危険を冒すことになる。アフリカ諸国ではそれだけ言論の自由が保証されていない。国家の統一と安定の名目のもとに抑え込まれていることは事実だろう。だが、ロシアとかアメリカ合州国で、その自由があるかというのは議論の余地があるだろう。海外にいても不可解な死を遂げたり、アフリカよりもっと巧妙な形で、言論操作が行われているのは事実ではないか。

 一見辛口のジャーナリズムの中に潜む「優しさ」に、家父長主義を感じてしまうのは穿ち過ぎなのだろうか? 

(2009年1月1日)

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