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Habari za Dar es Salaam No.88   Budget 2009/10 ― 2009/10年度予算案 ―

根本 利通(ねもととしみち)

 6月11日に新年度予算案がムクロ蔵相(Msutafa Mkulo)によって発表された。例年通り、ケニア、ウガンダの新年度予算案発表も同日である。タンザニアの今年度予算の特色(売り物)は、「免税措置」の大幅削減である。

📷  まず予算案の大枠を見てみよう。  (1)今年度の歳出:9兆5137億シリング(前年度比31.8%増)    ・通常予算:6兆6883億シリング(前年度比41.5%増)    ・開発予算:2兆8253億シリング(前年度比13.5%増)  (2)今年度の歳入     ・国内の税収および非税収入:4兆7280億シリング(前年比7.8%増)    ・地方政府の収入:1381億シリング(前年度分離表記なし)    ・海外からの借款、贈与、援助:3兆1819億シリング(前年度比30.9%増)    ・国内からの借款:1兆827億シリング(前年度なし)    ・NMB株売却益:150億シリング(前年度比74.1%減)

 国内の歳入の占める比率が、2006/7年度予算案では50.7%、2007/8年度は58.0%、2008/9年度は65.5%と順調にアップし、外国への依存率の低下、財政の健全化が進んでいると見られていたが、今年度になって大幅に反転し、51.3%になってしまった(この数字は統計の採り方によって変わるようだ)。世界の不況の影響で、税収の伸びが停滞しているようだ。2009年3月末段階で、税収は見込みの91%程度ということだ。また昨年はなくなった国内からの借入が復活したのも同じ背景だろう。GDPの成長率は2008年は7.4%を達成できたが、インフレ率は10.3%に達し(ただし、2009年4月のインフレ率は12%)、1998年以来10年ぶりに2桁に乗った。昨年の石油価格の高騰に伴う輸送費の上昇の結果としての食料価格の高等が影響していると思われる。2009年の経済成長率は4~5%に留まると見込まれ、2012年には7.5%成長まで回復したいというのが目標とされている。

 GDPの部門別構成を見ると、農業(19.0%)、畜産業(4.7%)、林狩猟業(2.0%)、水産業(1.2%)、鉱業(3.4%)、製造業(7.8%)、建設業(7.7%)、商業(11.6%)、ホテル飲食店業(2.6%)、運輸業(4.2%)、通信業(2.5%)、不動産サービス業(9.6%)、行政(8.2%)となっている。

 2008年の経済成長は7.4%とされているが、それをを部門別の成長率を眺めると、連続して通信部門の20.5%が最大で、次いで金融(11.9%)、建設業(10.5%)、商業(10.0%)、製造業(9.9%)、鉱業(8.6%)となっている。農業の成長率は4.6%とされる。個人所得はTsh629,884で、前年比15.2%の大幅な伸びである。US$換算する場合、この統計に使われている2008年平均の数字($1=Tsh1,196.3)を使うと$527ということになる。少し高く出るようにしているのか、2009年7月現在のレートは$1=Tsh1,330前後であり、それを使うと$474ほどで、前年が$430くらいだったから、やはり10%程度は増加していると思っていいのかもしれない。

 2008年の農業商品作物の輸出を見てみるとコーヒーは微減(総量-1.8%、金額-0.6%)、その他は増加が多く、綿花(総量47.2%、金額73.2%)、茶(総量20.5%、金額42.2%)、タバコ(総量-6.1%、金額23.1%)、カシューナッツ(総量33.2%、金額57%)、丁子(総量171.4%、金額221.4%)となっており、総量だけではなく、世界的な商品価格の上昇により、金額的な増加が見られる。タバコのように輸出量は減少していても、金額的にはアップしているのが顕著な例だ。コーヒーと並んで減少したのはサイザル麻がある。総量が-71.6%と減少したため、世界の価格上昇にもかかわらず、金額的にも-62.5%となっている。この7品目をタンザニアでは伝統的輸出品と称するが、総計で4億1840万ドルで、昨年比29.5%増加である。昨年首位のコーヒーに代わって、綿花が1億1500万ドルでトップ、タバコが1億810万ドルで次点、コーヒーは9750万ドルで3位に転落した。

 2008年の非伝統的な輸出品を見ると、総計22億7060万ドルで、昨年比28.8%増である。内訳は鉱山物、特に金が圧倒的で9億3240万ドル(昨年比18.3%増)、工業製品が6億6230万ドルで、113.8%増という飛躍的な伸びとなっており、この増加の原因は糸とサイザル麻製品などの増加と説明されているが、納得できない。もっと他の原因があるだろう。水産物およびその加工品の輸出は1億4160万ドルで、13.5%減少となっている。水産品輸出のメインは、ロブスターとナイルパーチで、ナイルパーチは6460万ドルほどで7.6%減少となっている。

 外国からの観光客数は、2008年は76万5千人で、前年比6.4%増加。収入は13億5400万ドルで、やはり9.8%増加である。観光客がタンザニアに滞在する日数は平均12日でこれは前年と変わっていないが、ただ落とすお金が1日$198から$235に増えているという。目的地としてはンゴロンゴロがトップだと思われるが数字が出ていない。2007年は52万7千人で、2位のセレンゲティの28万4千人を超えてダントツだった。2008年の2位もセレンゲティで大きく伸びて44万4千人、3位はキリマンジャロで16万2千人となっている。

📷 さて新聞(Daily News)の掲げる予算案のハイライトを見てみよう。    ・VAT(付加価値税)が20%から18%に引き下げられる。   ・人間用薬品とヤシ油原油に対する10%の関税廃止。   ・熱絶縁ミルク冷却用タンク、アルミニウム製ジェリ缶、農業サービスに対するVAT免除   ・ビール、ワイン、ソフトドリンク、タバコの実行税アップ。   ・鉱山会社に対する石油免税廃止。    ・旅行会社による車両及び部品輸入の免税。   ・NGOおよび宗教法人に対するVAT免除の廃止。   ・中古衣料(ミトゥンバ)の関税引き下げ。   ・貸家に対するVAT課税。

 昨年強調された重点6部門が依然として、予算配分が多い。歳出を部門別に見ると、教育が引き続き最大で1兆7439億シリング(前年比21.9%増)。インフラ(道路)が1兆966億シリング(同12.7%増)。保健が9630億シリング(同5.7%増)。農業が6669億シリング(同30.0%増)。水が3473億シリング(同50.0%増)。エネルギー鉱山が2855億シリング(同24.6%減)。金額的には教育が、比率的には水が飛躍的に伸びている。エネルギーが減っているのは、昨年まで電力を借り入れていた数社との契約が切れたためで、代わりに韓国、サウジファンド、BADEA、OPECファンドから借り入れになる模様。この重点6部門の歳出合計が5兆1032億シリングとなり、2009/10年度予算の64%を占めることになると演説では述べているが、単純計算だと53.6%だと思うのだが、どういう計算なのか。

 最低賃金についてこの演説では触れられていないが、国会討論の中での出てくると期待されている。また年金の最低支給額が月21,601/05シリングから、50,114シリングと倍増されたが、$換算すると約$38程度である。自給自足する畑があればともかく、都市部では生活できないだろう。そしてその小額の年金をもらえるのは公務員とごく一部の会社員に過ぎないのだろう。年金制度が拡充され一般に広まったのはここ数年に過ぎない。もっとも、年金だけでは生活できないのは日本も同じことだが。

 旅行会社としては、「旅行会社の車両の輸入の免税」という項目に注目した。が、実際には野生動物サファリ用に改造された車両のみが対象のようで、一般の観光は視野に入っていないのか、私たちには恩恵はなさそうだ。それどころか、免税措置廃止の動きで、昨年タンザニア投資センター(TIC)に申請して許可を取っていた、一般車両の免税措置も通らず、税金を払わされてしまった。法律に則って、申請し、認可料を払って取得したものが簡単に変更、反古にされる。その後、TRA(タンザニア国税局)の幹部に確認したら、「従来の契約は有効」ということで、この6月末に輸入した車両の税金は払わないで済んだようなのだが、港で実際に税金の査定をするTRAの役人は「免税取り消し」と言い、争うとドドマで国会開催中で、権限のある幹部は不在で、時間が空しく費やされ、長引くと港の保管料もかさむし、また港に長く置いておくと「車が痩せる」=部品などが盗まれることは日常茶飯事だから、早く港から車両を取り出すことを優先して、税金を払ってしまった。外国からの投資家に取っては、投資の許可、契約をとっても、その契約が守られるかどうかは不透明で、担当の役人も法律の変更は十分に理解しておらず、極めて不安定な投資環境であるといえよう。

📷  今回の予算の目玉は「免税措置の大幅削減」であった。大蔵大臣の演説では、タンザニアの免税措置は、過去10ヶ月で4億5100万ドルに達し、税収の30%(この数字の根拠は不明だが)にも及ぶ。そのGDPの比率は3.5%に達し、隣国のケニアの1%、ウガンダの0.4%と比べて多く、不当であるという議論である。一部の国会議員は宗教団体の経営する学校(大学、中学校)が公立学校に比べ倍以上の学費を取っていることを例に上げ、政府案を支持した。

 しかし、NGOと宗教法人へのVAT免税廃止には強烈な反発が出た。確かに、NGOとか宗教法人を隠れ蓑にして、脱税、密輸入行為が行われているのは事実らしい。特に、雨後の筍のように増えたNGOには怪しいものもあるようだ。だが、キリスト教会を中心として、特に地方で病院・医療、学校などの活動に、海外の資金が注がれ、政府の福利の手が回らない地方の人々の医療・教育を担っていることも事実だ。政府与党、野党を問わず、反対意見が続出し、特に「免税措置が廃止されれば、来年の総選挙で支持できない」という宗教人(圧倒的にキリスト教)の強硬な声明も相次ぎ、この政府の提案はあっさりわずか5日で引っ込められてしまった。この提案は最初からガス抜きだったのかと疑われるほどの軟弱さであった。

 今年度予算の二番目の目玉は「Kilimo Kwanza=農業第一」という農業重視政策である。「緑の革命」というやや古く感じられるスローガンがトップを飾ったりした。地方議会を通して、1628台の耕運機、55台のトラクター(総額128億シリング)を購入する。また、地方農業開発計画(DADPs)の下に、イリンガ、ムベヤ、ルクワ、ルヴマ州のいわゆるビッグ4にキゴマ、モロゴロ州を加えた6州に、292億シリングの補助を投入するという。

 インフラの中で、鉄道の劣悪化が叫ばれて久しいことは「ダルエスサラーム通信第83回」でも述べた。‘TRC(中央鉄道)の2008年の輸送実績は、乗客39万2千人、貨物42万9千トンと発表され、2001年の乗客72万8千人、貨物135万1千トンと比較するとそれぞれ53.8%、31.8%に過ぎない。特に貨物の落ち込みが目立つ(2007年は乗客52万4千人、貨物71万4千トンだった)。TAZARA(タンザン鉄道)は、TRCに比べればまだましというレベルで、2008年の輸送実績は、乗客117万7千トン、貨物52万5千トンである。2000年を見てみると、乗客160万9千人、貨物63万8千トンだったから、それぞれ73.2%、82.3%の実績になっている。TAZARAには中国の援助3930万ドルが発表されているが、主として技術援助のようだから、さらに財政援助を他の国際機関に求めているようだ。。もう一方のTRCは6月初めには労働者のストで、列車が数本運休したが、インドの経営陣とタンザニア人労働者の対立は深まっているようで、いつ運休になっても不思議はないかもしれない。ただ、その一方で、ルワンダ、ブルンジといった内陸国への鉄道輸送のための近代化、ドイツ植民地時代に敷かれた狭軌の線路の広軌化(1インチから1.43インチへ)計画も発表されている。

 EAC(東アフリカ共同体)の関税同盟の実施を控え、保護関税の問題も、セメントが代表例で議論されている。インド、パキスタン、中国などから安価なセメントがどっと流入していて、タンザニアにある3社のセメント会社の内2社が操業を停止したようだ。またミトゥンバへの関税引き下げも、紡績業への打撃となるだろう。さらにヤシ油の原油の関税ゼロ化にしても、マレーシアから原油を輸入しているわけではなく、ヤシ油を主成分とした食料油を輸入しているわけで、そのおかげでひまわりの大量在庫がドドマ、シンギダ州では目立ち、農民の意欲を削いでいるという。原料は十分に生産できるのだから、比較的簡単な農村加工工業は育成できないのだろうか。

 最後に、6月17日に発表されたザンジバル政府の予算案を見てみよう。総予算4126億シリングだから、昨年比20.7%増加である。歳入見込みは1597億シリングで昨年比18.7%増加。総予算の内38.7%が自前で、残りは援助などに頼ることになる(昨年は39.4%)。最低賃金は月8万シリングから10万シリングにアップされたが、ザンジバルのインフレ率は本土よりも高く、2007年は13.1%だったが、2008年は20.6%に達したとされる。予算の中心は観光部門の開発におかれ、そのためのインフラ整備、灌漑農業、漁業、医療サービスと教育の改善が挙げられている。観光開発ということで、特にウングジャ島には外資のホテルが増えているが、「有資格者が足りない」という名目で外国人のスタッフが最近増えている。「ザンジバル人に出来る仕事を外国人に与えるな。ザンジバル人の失業を考えろ。外国人の流入を規制しろ」という主張は与野党を問わず出てきており、教育の充実もその観点から唱えられているようだ。あるいは来年の総選挙の前哨戦(宣伝合戦)の色彩が出ているのだろうか。

☆参考文献:『Hali ya Uchumi wa Taifa Katika Mwaka 2008』(Wizara ya Fedha na Uchumi,Juni 2009)

(2009年8月1日)

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