Kusikia si kuona No.3 オルドイニョ・レンガイ登山とレイク・ナトロンサファリ‐その①
相澤 俊昭(あいざわ としあき)
オルドイニョ・レンガイは前から登ってみたい山だった。マサイの言葉で「神の山」を意味する山はアフリカ大陸を南北に縦断するグレート・リフト・バレーにある活火山でタンザニア北部にある。この辺りは今でも地殻活動が盛んで最近では2007年から2008年に大きな噴火活動があり、危険で登山をすることが出来なかったが、最近は落ち着きを取り戻し登山が出来るようになった。オルドイニョ・レンガイまではアルーシャから4WDで4時間ほどで着く。タンザニア北部のマニャラ国立公園の傍にあるムトワンブの町から北へラフロードを2時間ほど走らせるとキャンプ地のあるナトロン湖の湖畔に着く。途中、ヌー、ゼブラ、ガゼルなどの野生動物も見ることが出来るのでちょっとしたサファリも楽しめる。運が良ければ象の群れに遭遇することもあるそうだ。
オルドイニョ・レンガイ登山は通常、当日か前日に近くの村でマサイのガイドを雇い、夜中に登山を開始して、朝方に山頂に到着し、朝日を眺めて下山する。標高はこの前の噴火で少し高くなったようだが3,000m程度で、キャンプ地のあるナトロン湖の湖畔が標高800mほどあるので、山そのものとしてはそれほど高くはない。ただ、この地域は年間の降雨が800㎜にも満たない乾燥した地域で、日中の気温は40℃を超えることもある。この殺人的な暑さを避けるために夜中に登頂し、下山する。
私たちが行ったのは4月下旬の大雨季でそれほど暑くはなかったが、数日前に降った雨の影響でキャンプ地からの山の麓までの道が流され、岩がごろごろしており4WDで登山口まで辿り着くのも一苦労だった。山には登山道のようなものは全く無く、ガイドに案内されるがまま真っ暗な中を登っていく。山の中腹ではちょっと横を見ると溶岩が流れた深い溝や地割れの跡の険しい道が続いている。火山灰の降り積もった滑りやすい道なき道をただひたすら進んでいく。そして頂上の手前では傾斜が50度以上もあるような岩場や火砕物に覆われた滑りやすい斜面を登る。足場は非常に悪く、まともに立っていられない。四つん這いで滑り落ちそうな身体を必死に支えながら登っていく。この山が活火山であることを示すように、山頂付近では無数の煙が立ち昇り、硫黄の匂いが充満している。
頂上まで辿り着くと、そこには言葉を失い、立ちすくむような風景が目の前に広がっていた。他の山のように頂上と呼べるようなものはなく、辿りつた所は大きな噴火口がぽっかりと開いた幅50㎝も満たないような噴火口の縁だった。片一方はこれまで登ってきた急斜面で、目の前は噴火口に落ち込む、切り立った崖だ。言葉では説明するのは難しいが、誰が見ても驚くような光景だと思う。
噴火口からはモクモクと煙が出ていて、時折崖が崩れたりしている。風が吹きつける、まだ夜明け前の薄暗い中で見たこの光景はまるで地獄のような気さえした。しばらくすると太陽が昇り、朝日に照らされ、だんだんとまわりの景色が見えてくる。すぐ傍にはグレート・リフト・バレーがあり、その向こう側にはンゴロンゴロ・ハイランドとどこまでも続くセレンゲティ平原が見える。これまで登ってきた山の斜面を見ると、溶岩が流れた深い溝が平地まで続いているのが見えた。
グレート・リフト・バレーから流れ落ちる滝は川となり、フラミンゴの繁殖地で有名なナトロン湖へ続いている。どこかの惑星の景色を見ているような気持ちになった。マサイのガイドが言うには天気が良ければ氷河を頂く、はるか遠くのキリマンジャロまで見えるそうだ。こんな雄大で素晴らしい景色はタンザニア広しと言えども、なかなか他では見れないだろう。下山中、なんで登って来てしまったのか後悔するほど斜面が急で怖かったが、私のお気に入りの場所の一つになった。
(2012年5月15日)
*;『Kusikia si kuona』とは日本語で百聞は一見にしかずという意味です。タンザニアで私が実際に見て、感じたことをこのページで紹介していきたいと思います。