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  • 執筆者の写真白川

Shwari No.5 Gombe Stream National Park -ゴンベ渓流国立公園-

石原裕介(いしはら ゆうすけ)

タンザニアの東部、タンガニーカ湖東岸にあるゴンベ渓流国立公園。ここは、著名なチンパンジー研究家、ジェーン・グドールがチンパンジーの調査・研究を行っていたことで有名なタンザニア最小の国立公園だ。緑豊かな木々に覆われた山にはチンパンジーが住み、他にも、レッドコロブスモンキーやヒヒなど、霊長類が多く生息する。

先日、日本からのツアーに同行し、そのゴンベへ2泊3日で行ってきた。チンパンジーに関する知識もなく、今まであまりチンパンジーのことを考えたこともなかったが、実際にこの目で見て、研究者の方々からお話を聞くことで、とても勉強になり、またすばらしい経験となった。今回はそのゴンベの様子をお伝えしたいと思う。

ダルエスサラームからゴンベまでは、まずフライトでタンガニーカ湖東岸の町キゴマまで飛び、そこから小さなエンジンボートでタンガニーカ湖を2時間程度北上する。波のためボートは多少揺れるが、それでも、透き通るように青々としたタンガニーカ湖上をボートで走るのは気持ちがいい。旅の目的はもちろんチンパンジーに会うことだが、仮に運が悪くチンパンジーを見ることができなくても、このタンガニーカ湖で泳ぎ、日光浴をし、のんびりするだけでも、満足してしまうかもしれない。対岸に落ちる夕日も大変すばらしいし、湖で取れる魚もおいしい。ゴンベはそんな場所だ。

初日は移動で終わってしまったが、翌日からチンパンジーを見に、チンパンジートレッキングに出かけた。チンパンジーを追いかけ山に入っているトラッカーからガイドに連絡が入り、その連絡をもとにガイドが私たちを森へ案内する。時には汗だくになりながら急斜面を登り、時には木や枝を潜り抜けるように歩いていく。そして、30分から1時間くらい歩いただろうか、ついにチンパンジーのグループと出会うことができた。

トレッキング路の脇にうずくまるようにしている影が見えたが、あまりに唐突で、自然なものだったため、それらがチンパンジーだと分かるのに数分かかったと思う。私たちと彼らの距離は多分10mくらいあったと思う。事前に10mはチンパンジーとの距離を保つように言われていたため、参加者はただただそこに立ち、写真を撮り続けていた。すると私たちの進んできた道の先にも、道の中央で寝転ぶようにしているチンパンジーがいるではないか。親子のチンパンジーだった。「かわいいなぁ」と思いながらも、生まれて始めてみる野生のチンパンジーに少々興奮をしていた。すると、先ほどまでわれわれの道をはさんだ反対側で木にぶら下がっていたチンパンジーが突然叫びだした。これはチンパンジーが興奮したり、威嚇したりする時に見せる動きで、ディスプレイと呼ばれている。「ホッホッ」「キー」と叫んだり、木を揺らしたり、地面をたたいたり、時には石を投げたりもする。このような場合は、近くにいる人間は一まとまりになり、彼らが落ち着くのを静かに待つように言われていた。木にぶら下がっていたチンパンジーが叫びだすと、周りにいたほかのチンパンジーたちも同調するようにディスプレイを始めた。さらに先ほどまで寝ていたチンパンジーがこっちへ走ってくるではないか。あまりに突然だったため、さすがに怖くて私は下を向いて動けなかった。私たちの前をするっと走り抜け、しばらくすると何事もなかったかのように彼らはおとなしくなった。

チンパンジートレッキング中は、常にチンパンジーと同様に行動する。チンパンジーが動けば私たちも動き、彼らが止まったら私たちも止まる。時に見失うこともあるが、彼らの後を追ってしばらく歩いていると再び遭遇することが多かった。チンパンジーをこんなに近くで、またこんなに長く見られるとは思っていなかったし、最後にはチンパンジーがレッドコロブスモンキーを狩って食べているところまで見られたので、大満足だった。

チンパンジーは世界的に最も絶滅が危惧されている動物のひとつで、それらを守ろうとする動きは活発だ。しかしながら、「チンパンジーを守る」ということは、決して、「チンパンジーだけを守る」ということを意味しているわけではない。チンパンジーは木の実などを食べると同時に、他のサル等の肉も食べる。したがって、チンパンジーを守るためには、そういったサルも守らなければならないし、そのサルたちの食べる植物も守らなければならない。結果として、現在保たれている自然全体を保全していかないことには、チンパンジーを守ることは出来ないのだ。つまりチンパンジーを守るということは、その森の生態系すべてを守るということにつながる。

最近は、特定の動物を棚に上げ、「知的だから保護しましょう」「かわいいから保護しましょう」といった議論がまかり通るようになっている。しかし、その動物と人との関わり方や、その動物の自然界での位置づけをしっかり考えていく必要があると思うし、ある限られた種類の動物だけではなく、自然を全体として考えていかなければならないと思う。今回チンパンジーとのふれあいを通して、そういったことを深く考えさせられた。

(2009年9月15日)

*「Shwari」  私の大好きなこの言葉は、スワヒリ語で「平穏」を意味し、タンザニアでは挨拶でも用いられるほど頻繁に使われます。このコーナーでは、そんな穏やかでのんびりしたタンザニアの様子を、みなさんにお届けしていきたいと思います

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