Tupo No.10 スワヒリ語を通して ~言葉は価値観~
更新日:2020年1月19日
幾山 未有(いくやま みゆう)
気づけば、これが最後の投稿になります。ここJATAツアーズで3年4ヶ月お世話になりました。2011年、12年と青年海外協力隊として暮らした2年も加えると、全部で5年4ヶ月のタンザニア生活でした。私のスワヒリ語も、日常会話レベルに少し毛が生えた程度ですが、ツアーでの通訳や撮影コーディネーターなどもできるようになりました。それもすべて、周りのタンザニア人が、できない私を馬鹿にすることなく、いつもスワヒリ語を優しく教えてくれたからだと思います。そして、まだまだ毎日知らない言葉に出会い、そしてその度にスワヒリ語の奥深さを感じ、もっと知りたいと思わせてくれます。彼らの優しさとスワヒリ語がもつ魅力のおかげで、タンザニア生活をとても楽しく過ごすことができました。
そして、今とても実感していることは、言葉は価値観、ということです。今やGoogle翻訳やスマートフォンアプリなどで、世界中の言語を簡単に訳すことができますが、それでもやはり、その土地の言葉を学ぶことの魅力はなくならないと思います。なぜなら、言葉を学ぶことは、単にその意味を理解するだけではなく、その土地に根付いた価値観や考え方、文化、そして人柄を、感じる一番の方法だと思うからです。
単に頭で理解するのではなく、そうやって感じることこそが、価値観の異なる文化の中で生活することの醍醐味であり、新たな気づきや視点を与えてくれるのだと思います。そこで、今回は、ごくごく簡単ですが、私が学んだいくつかの例をご紹介したいと思います。
【例1】時間
スワヒリ語を勉強して、一番初めに難しさを感じるのは、時間だと思います。何が難しいかというと、スワヒリ語は、面白いことに6時間ずれているのです。
たとえば、朝の7時はSaa1(1時)、お昼の13時は、Saa7(7時)と呼ぶのです。最初は、なんでそんな面倒なこと!と、思いましたが、ある人に、ここでは夜明けが一日の始まりなのよ、と言われて、なるほど!と思いました。
Saa 12 (12時) - 朝6時 ・・・1日のはじまり
Saa 3 (3時) - 朝 9時
Saa 6 (6時) - 昼12時
Saa 9 (9時) - 昼 3時
Saa 12 (12時) - 夕方6時
深夜0時から1日が始まるよりも、もしかしたら実はとても自然な考え方なのかもしれません。朝日で一日が始まり、日が落ちてから夜が始まる。当たり前のことを、今一度思い出させてもらったように思います。
【例2】ココナッツ
日本では「ココナッツ」や「ヤシ」とだけ認識していますが、スワヒリ語では、その成長段階によって呼び方が違います。
-------------------------
Kidaka・・・花が落ちた後にできる小さな実
Dafu・・・中においしいココナッツ水が入っていて、白い実の部分も柔らかい若い実。
清涼飲料水のように、のどを潤してくれるので、道端でよく売っている。
Koroma・・・中にココナッツ水がギッシリ詰まり、白い実の部分も硬くなってくる
Nazi・・・熟した硬い実。削って水に浸したものを濾して、料理に使うと、とてもよい香りがする。
Mbata・・・水気がなくなり乾燥した実。甘くておいしい。
-------------------------
このように、生活に密接に関わるものには、きちんと名前があり、それらを使い分けているのです。実は、スワヒリ語を勉強し始めた頃は、語彙の少ない言語だと感じていた時期がありました。その当時私には日本語の尺度しかなく、日本語で話したいことをスワヒリ語にできないもどかしさのせいだったのだと思います。でも、それは本当はお門違いで、そこの生活にはそれにあった言葉と語彙があります。今は、逆にスワヒリ語は、そんなことまで名前がついているの?と思ったり、スワヒリ語を日本語に訳すのに苦労したりしています。スワヒリ語を学ぶことで、そういった微妙な意味合いやニュアンスに触れることができ、頭で理解するだけでなく、感覚として分かることができるような気がします。
【例3】カリブ
タンザニアに来たことがある人なら、必ず聞いたことがある言葉、「カリブ(Karibu)」。この言葉には色々な意味が含まれています。「いらっしゃい」「ようこそ」「どういたしまして」・・・でも、実は直訳すると、「近い」という意味なのです。
つまりは、
「近くにおいで!(Tukae Karibu!)→いらっしゃい! とか
「私たちって近しい仲じゃないの。(Tuko Karibu)」→どういたしまして
という意味合いで、Karibuと言っているような感じがするのです。近い=歓迎という意味になるのが、面白いと思いませんか?毎日使っていると、「近くで一緒にいること」が、嬉しいこと、喜ばしいこととするのが、彼らの価値観なのだと思うのです。
実際、ここには、挨拶をとても大事にする文化(私はサリミア(挨拶する)文化と呼んでいる)があります。ここでは、サリミアはとても重要で、用事がなくても会いに行ったり、電話をしたりします。しばらく(と言っても3日ほど)顔を見せないと、どうしたの?どこに行っていたの?と心配されます。別の時には、毎日通る道でKaribuと歓迎してくれるお家があったのですが、遠慮して一度も訪問せずにいると、私たちは単に一緒に座っておしゃべりしたいだけなのに、なんで来ないの!!と怒られます(笑)。初めの頃は、何の用もないのになぜ??ちょっと鬱陶しいな・・と思っていましたが、彼らの行動は、ただ一緒にいたい、相手を近くに感じたい、元気でいるか知りたい、という自然な気持ちから来るもので、それ以上でも以下でもない、というものなのだと知りました。(下心がある場合ももちろんありますが、笑)
また、少し話はそれますが、Karibuから派生してKaribia(近づく)、Karibisha(歓迎する)など色々な言葉になっていくのもスワヒリ語の面白い点です。語頭や語尾の微妙な変化で意味や使い方が変わり、表現の幅も広がるので、1つ単語を調べると、そこから芋づる式にいろんな言葉を学ぶことができます。そしてかなり喋れるようになった気分にしてくれます(笑)
いかがでしたでしょうか。これらはほんの一例でしたが、単に翻訳された文章だけを聞いても気づかないことが見えてくると思います。こうやって、彼らが何を考えているのか、言葉をヒントに寄り添っていくと、スワヒリ語はなんとも自然体で、居心地のよいものに聞こえてきます。それそのままが、タンザニアの人々の心地よい雰囲気につながっているのかもしれません。時には文化が違うことに、もどかしさや苛立ちが覚えることがあるかもしれませんが、その奥にある価値観に触れられたら、文化が違う“理由”が見えてきて、またひとつ楽しみが広がります。ぜひみなさんも、旅行の際に、地元の人に混じって、同じ言葉を少し話してみてください。もっともっとタンザニアの人たちを好きになれると思います!!
私が一番初めにお世話になったスワヒリ語の本はこちらです。
▼ニューエクスプレス スワヒリ語 (竹村 景子先生 著)
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b206178.html
私はこの一冊に大変お世話になりました。小さな薄めの本(今は改定されて少し分厚くなっています)ですが、スワヒリ語の基本を網羅している上に、とても分かりやすく説明してくれています。これ一冊マスターすると、日常生活では困りません!
*Tupoとは、スワヒリ語で私たちは(一緒に)いる、という意味です。
タンザニアという国とその人々に寄り添って、タンザニアの今をお伝えするのが目標でした。みなさま、どうもありがとうございました!!
【退職のご挨拶】
3年4ヶ月の間、JATAツアーズスタッフとして、旅行企画や手配、ガイドなどをしながら、皆さんのタンザニア滞在をお手伝いさせていただきました。一筋縄ではいかないことも多々ありましたが、大好きなタンザニアを、皆さんが実際に見て感じてもらうためのお手伝いをする、というのは、この上ない喜びでした。本当にありがとうございました。










