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  • 執筆者の写真白川

Upepo wa Tanzania 第5回 Unyago(成人儀礼) 

池田智穂(いけだ ちほ)


10月、私の家に週三回掃除や洗濯に来てくれるアンナに、「妹のNgoma(踊り)があるから来ない」と誘われた。きちんと招待状までもらった。 「Ngomaって何のお祝いなの?」っと聞くと妹が15歳なったお祝いだという。どうやら成人儀礼のようだ。大学時代の授業の中で、少しだけ聞いたことがあったが、どのようなものか未だに見たことがなかったので、二つ返事で「行く!」と返事をした。  

それから、しばらく経ったのでそのNgomaのことを忘れかけていた11月半ば、帰宅するとアンナから置き手紙と布が置いてあった。(アンナは平日の08:00~14:00に掃除に来てくれるが、平日は私も仕事なのでほとんど会わない。そこで私達は、毎回交換日記のように置き手紙のやりとりをしている) そこには、「Ngomaの服を、これと同じような布を買って作ってね。時間がないなら私が買ってきてあげる。それからプレゼントも忘れずに!」とあった。早速アンナに布を買ってきてもらって、仕立て屋さんに持って行った。「12月3日にいるから12月2日の夕方には仕上げてね!」っと念を押しておいたのだが…  

12月3日、アンナはいつもよりすごくお洒落してやって来た。ウィッグをしてお化粧もしていた。私も早速頼んでいた服を取りに行った。が、仕立屋のおじさん(こちらでは仕立屋は男の人が多い)は未だ私の服を縫っていた。「昨日までに仕上げてって言ったのに…」というと「後15分でできるから」と言って、超特急で縫ってくれた。出来上がったワンピースは急いで縫った割には、きちんと切り替えしも入っていてなかなかの出来上がりだった。本当はその日にアンナと一緒にNgomaが行われるチャリンゼに行く予定だったのだが、その晩はどうしても1泊することができなかったので、「だったら明日くればいいわよ。」というアンナの言葉に従って、翌日行くことにした。あんなに急いで縫ってくれたおじさんには少し悪い気はしたが…  

翌朝、アンナの親戚の人が家まで迎えにきてくれた。チャリンゼまでダラダラ(乗り合いバス)に揺られて1時間半ほどかかった。チャリンゼのアンナの村に着くと人は沢山いるものの意外に静かで驚いた。アンナや彼女の姉妹たちそれにお母さんが心よく出迎えてくれた。皆すごくおしゃれをしていて誰が主役なのかよくわからなかった。「で、主役はどこにいるの?」っと聞くと「後から出てくるわ」とアンナ。しかし、待てども待てども何も始まらない。11時頃村に着いたのだが、女性たちは料理を作りながら話し、男性も同じように木陰に座ってお酒を飲んだり、話をしたりしていた。子どもたちもいつも通り変わった様子もなく遊んでいた。2時頃になって、女性たちが作っていたピラウが出来上がり、皆で頂いた。できたてのピラウ、特にお祝いごとなどに出されるピラウは具たくさんでとてもおいしい。昼食が終わって外に出ると何やら少し騒がしくなっていた。双子のようにそっくりな男の子2人が、ゴザの上に座りその周りも大勢の人が囲んでいた。どうやら男の子のNgomaも兼ねていたらしい。着飾って座っている男の子たちの前に、人々がお賽銭のようにお金を放り込んだり、手渡しをしていた。  

それが終わると、今度は大きなお祝いの品が入ったスーツケースが運びこまれ、音楽に合わせて女性が踊りはじめた。踊りながら、皆からのお祝いの品を一つ一つ観客に披露しながら、投げていく。 女性が投げる先には、さっきの男の子たちの母親たちがいて、そのお祝いの品を受け取るというふうになっていた。男の子へのお祝いは、子ども用の洋服、靴、かばんなど日用品が多く、後に登場するであろうアンナの妹へのお祝いはカンガ、キテンゲ(どちらもタン ザニアの女性がよく身にまとう布)が多かった。勿論私のプレゼントのキテンゲもみんなの前に披露された。お祝いの品はとても多く、それを一つずつ披露するので、1時間半ほどかかった。その間披露する女性はずっと踊り続けているのだからすごい。踊りも腰を振ったり体で大きく表現するような激しい踊りだった。

お祝い品のお披露目が一段落したころは既に4時を回っていた。しかし、主役のアンナの妹は未だ姿を現さない。もうこのまま出てこないのではないかと思い、アンナに「妹さんはどこにいるの?何でまだ出てこないの?」と聞くと、「まだ準備中だ」と言って、妹のいる部屋に連れて行ってくれた。彼女がいた部屋は普通の家の1室で、これと言って変わった様子はなかったのだが、雰囲気はやはり緊張感に包まれていて、彼女の顔も緊張している様に見えた。挨拶をしても返答がない。彼女はNgomaが終わるまで言葉を口にしてはいけないそうだ。その部屋で彼女は、大人になる為のいろいろなことを(例えば結婚生活のことなど)前日から学んでいたという。

そしてとうとう彼女が、皆の前に登場することとなった。まず踊っている人たちの集まりを避けて、隅のほうで登場するための準備をした。具体的には上半身は服を脱いで、布と葉でつくられた帽子のようなものを被らされた。そして踊っている人たちの中から一人男性を呼んできて、その男性に肩車をされた。そして彼女が皆の前に登場する時、アンナや 親戚の女性たちは「Usiogope!!(怖がるな!)」と叫んで彼女を励ましていた。 彼女は観客の前に出た瞬間、大きく肩を揺らして肩車をされたままの体勢で踊りだした。 今までの緊張が一気にほぐれたかのように、いきいきと踊る彼女はさっき部屋の一室で見た少し悲しそうな表情の彼女とは別人のようだった。

彼女が踊っている間、観客たちも歓声を上げNgomaはそのまま活気を失うことなく続いていた。そのNgomaがいつまで続くのか最後まで見たかったのだが、アンナを含め私たち ダルエスサラームに帰る組は、彼女の踊りを見届けた僅か数分後、すぐにダルエスサラーム行きのバスに飛び乗り、帰路に着いた。アンナいわくあまり遅くなると帰りが危ないからと気を遣ってくれたようだ。結局ダルエスサラームの家に帰り着いたのは夜の8時を回っていたが、その日は寝るまで、彼女のあの悲しそうな表情と、いきいきとした表情が頭から離れなかった。今度チャリンゼに行く機会があれば、彼女とゆっくり話しをしてみたなと思う。

(2006年2月)

  *Upepo wa Tanzania(タンザニアの風)では、あるスワヒリ語をキーワードに、池田智穂がタンザニアの日常について紹介していきます。

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